日本における「アルコール依存症」の患者数は、100万人以上と推定されている。このうち医療機関でしかるべき治療を受けている患者は5万人(率にして5%)にすぎないと言われるが、より深刻な問題は「予備軍」も含めた患者数が富士山の裾野のように、下に行くほどピラミッド型に増大していく点だ。
事実、依存症の患者数とされる100万人に対して、「アルコール依存症の疑いがある飲酒常習者」「飲酒に起因する生活習慣病を指摘された飲酒者」などに該当する「アルコール依存症予備軍」の総数は、推計で1500万人にも達するとみられている。
アルコール依存症患者に対する治療法については、これまで「断酒」が不可欠の前提とされてきた。ところが近年、進行を来した深刻な依存症患者は別として、そこまでには至っていないアルコール依存症予備軍には、従来の断酒を必要としない、新たな「減酒療法」の有効性が、治療現場で大きくクローズアップされているのだ。
イメージとしては、医師と相談の上、日々の飲酒量を記録しながら、ストレスや無理のない形で、飲酒量を徐々に減らしていく、という治療法である。
実はかく言う筆者も、コロナ禍が始まった2020年以降、いわゆる「家飲み」の機会が増えるにつれ、日々の飲酒量が無自覚的に増えていった。その結果、アルコール依存症というほどではないにしても、昨年あたりから、夕方になると「なんとなく落ち着かない」「全身にゾクゾク感がある」といった心身症状を自覚するようになったのだ。
このままでは、ヤバイことになる――。そう感じた筆者は、かかりつけ医に相談して、虚心坦懐に解決策を尋ねてみた。内心では「断酒を言い渡されるだろうな」と思っていたのだが、そこで提案されたのが、思いもかけない「減酒療法」だったのである。
はたせるかな、それまで毎晩、大きめのタンブラーで少なくとも5杯以上は飲んでいた焼酎の水割りを、半年以上をかけて4杯⇒3杯⇒2杯と無理なく減酒していった結果、不快極まる心身症状は見事に雲散霧消。今では夕方を迎えても「酒を飲みたい」との欲求は起こらず、週に1~2日の休肝日まで設けられる余裕が出てきたのだ。
アルコール依存症は、悲惨な末路へと至る進行性の病である。依存症予備軍を自覚している読者諸氏には、ぜひとも救世主の「減酒療法」を試していただきたい。
(石森巌)