魚住 宝石を選ぶ時の注意点を教えてください。
諏訪 魚住さんは、どういう基準で宝石を選んでいますか?
魚住 やはり人前に出る職業なので、お仕事の時は全部本物を身につけていくというのが私のポリシーです。洋服もそうですけど、本物はやはり仕立てが素晴らしい。宝石は信頼できるお店で、お店の方と一緒に石を見て、こういうデザインにしてほしいとか、こういうデザインでどうですか、と一緒に考えて作っています。
諏訪 素晴らしい! 魚住さんのように自分の目的に合ったものを自分の目で見て選ぶのが一番いいんです。宝石は10億円を超えるものもあるし、20万円くらいのものもあります。また、安くても価値があるものもあるし、何百万円出しても駄物もあるので、見極めがすごく大事なんです。
魚住 ダイヤモンドにはカラット(重さ)、カット(輝き)、カラー(色)、クラリティ(透明度)という4つの要素の頭文字から4Cと呼ばれる品質のグレードがありますが、これに惑わされてはいけないと書かれています。
諏訪 そうです。もともと宝石商や小売商がダマされないようにするにために作った基準でした。そこから都合のいい部分だけを取ってアレンジして高く売れるようにしたんです。4Cはあくまで品質判定の尺度の一部で、必ずしも美しさや価値の評価とは一致しません。
魚住 自分の目で見て「これがいい!」っていう感覚が大事ですね。あと日本では「婚約指輪は3カ月分のお給料くらいの値段のダイヤモンド指輪」というのが定着していますけど、これにも裏があるそうですね。
諏訪 70年代、ダイヤモンドの採掘や流通、卸売をしている世界最大の会社デビアスが、1カラット以下のダイヤモンドの原石が余っていたことから、それを売るにはどうしたらいいか考えました。そこで、日本をターゲットに給料3カ月分で買える0.2〜0.3カラットの小粒のダイヤモンドをセットしたソリテール(石を1つだけセットした指輪)を売ろうと、広告代理店と組んで、そうしたプロモーションを展開したんです。
魚住 それが飛ぶように売れて、今でも婚約指輪といえばソリテールですね。
諏訪 私も当時、小粒のダイヤモンドをたくさん輸入して国内の業者に卸していたので反省しています。残念ながら、頑張って買った婚約指輪は、タンスの肥やしになっていることが多いんです。
魚住 確かに、普段している人はあまり見かけません。
諏訪 なぜなら、バランスが悪いからです。ダイヤモンドはあまり輝いて見えず、仕立てが悪いと地金から外れたりします。同じカラットなら、ダイヤモンドを複数並べたバンドタイプリングや、全周にセットしたエタニティリングの方が石の美しさを引き出すことができます。
魚住 女性へのプレゼントには、バンドタイプリングやエタニティリングを選んだ方がいいですね。実際に買おうと思ったら、どんなお店に行けばいいですか?
諏訪 まずヤメた方がいいのは、安売りをしている店です。普段から9割引とか安売りしている店は避けてください。
魚住 何かカラクリがあるんですか?
諏訪 例えば、原価が5万円のものに100万の値段をつけて、それを9割引といって10万円で売る。もともと10万円くらいが適正価格なんです。
魚住 それは悪質ですね。
諏訪 世の中には悪い人もいるので、こちらが見抜かなくちゃいけない。だから9割引にしているってことは「私はウソつきですよ」って言っていると思わないといけません。
魚住 現在の宝石市場の相場を基にした「価値比較表」がとても参考になります。
諏訪 私はオークションで買うことを勧めていますが、見極めが難しいということでしたら、メンテナンスをきちんとする宝石店がいいですね。宝石はタンスの肥やしではなく、長く身につけて楽しむものですから。メンテナンスをしっかりしてくれる店は信頼できます。
ゲスト:諏訪恭一(すわ・やすかず)1942年、東京都生まれ。諏訪貿易株式会社会長。慶應義塾大学経済学部卒。名店SUWAを経営する、宝石商の3代目。日本人で初めて米国宝石学会(GIA)宝石鑑別士の資格を取得。国立科学博物館の特別展を監修するなど宝石文化の普及にも努める。諏訪恭一出版記念 特別講演会「宝石 私の判断基準 宝石はなぜ価値があるのか」を10月16日(水)国際文化会館 岩崎小彌太記念ホールで開催。URLhttps://www.gemtrigon.com/
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶応義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。