政治

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈トランプにゼレンスキー批判を焚きつけた側近〉

 2月28日、訪米したウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスでトランプ大統領と会談したが、途中から激しい口論となり、決裂した。トランプは激昂し、その後、ウクライナへの軍事支援の一時停止を命じるなど、双方の溝は深まっている。ウクライナは最大の支援国である米国からの兵器供与が止まれば、ロシア軍との今後の戦いでかなり苦戦を強いられることになる。

 もともとトランプは第1期政権時からプーチン擁護の言動が多かったが、今回の停戦仲介でも同様だ。それでも米国の大統領である以上、ゼレンスキーもトランプをおだて上げる姿勢で接してきた。

 しかし、トランプは2月18日、「ゼレンスキーはわずか4%の支持率しかない」と発言する。それに対し、実際には支持率57%のゼレンスキーは、「米国民を代表する尊敬する指導者だが、残念ながら偽情報の中にいる」とトランプをほんの少し批判した。これにトランプは激怒。「ゼレンスキーは独裁者だ」「無謀な戦争に突入したのは彼だ」と罵倒し、両者は険悪な関係になってしまう。

 困ったゼレンスキーは、自国の鉱物資源の一部の利権を米国に提供することを提案。トランプはそれに食いつき、記者会見で「ゼレンスキーが独裁者? 私がそんなことを言ったのか?」とトボけてみせ、鉱物資源協定調印のためのゼレンスキー訪米となったのである。

 ところが首脳会談の途中、同席していたバンス副大統領が「解決は外交しかない」と発言。それにゼレンスキーが、ロシアがいかに外交を踏みにじってきたかを説明すると、バンスは自分が否定されたと受け止めて激怒。ゼレンスキーの態度が失礼だといきなり罵倒し始めた。トランプもそれにつられて「ウクライナは米国の支援で何とか戦えてきただけで、支援を請う立場にすぎない」とゼレンスキーを罵倒し始めてしまったという経緯だった。トランプに問題があるのは明らかだが、それ以上に、罵倒の口火を切ってトランプをけしかけたバンス副大統領が目立った。

 トランプが副大統領に指名したこのバンスは、もともと異色の政治家だ。実は筆者が本連載を始めるにあたって編集部に提案した怪人物候補リストに、その名前も入れていた。米国の政界でのトランプ支持者でも突出した迷走言動が多かったからだが、その後、副大統領指名でいちやく表舞台に出てきたためにいったんリストから外していた。しかし、やはりお騒がせ人物なので、その人物像を紹介してみたい。

 ジェームズ・デビッド・バンスは84年生まれの40歳。米メディアではJDバンスとの表記が多い。地元高校を卒業し、海兵隊に入隊し、軍内記者となる。イラク駐留米軍で半年の非戦闘任務経験がある。約4年間の軍歴後に除隊し、大学と法科大学院で学ぶ。その後、地裁法務事務員、企業弁護士を経てベンチャー投資会社を経営。その間、16年に出版した自伝「ヒルビリー・エレジー」が大ベストセラーになり、全米で名を知られるようになった。

 中部アメリカに住む白人貧困層の現実についての記述で、彼は同じ境遇の米国民の支持を受けた。バンスは「ニューヨーク・タイムズ」コラムニストとなり、その後、CNNでもコメンテーターを務めた。

 そうした活動と同時に、白人貧困層問題を扱うNPO法人を設立し、政治活動を開始。当初は東部の都会派ビジネスマンだったトランプの大統領選出馬を批判していたが、第1期トランプ政権時にトランプ支持に転向。それも熱烈な支持者となり、トランプの知遇を得た。バンスは退役軍人支援組織や若手保守派組織の運営にも参加。19年に親トランプ派の保守系政治団体を設立した。本業の投資ビジネスでも、トランプ陣営の投資家たちと協力し、成功している。

 有名人だったバンスはメディアにもたびたび登場したが、21年には当時のハリス副大統領を女性差別的に中傷し、問題化した。そんな忠義ぶりがトランプに認められ、23年にはトランプの支持を受けて上院議員に。多くの法案成立に動いたが、ひとつも成就していない。性的少数派差別、多様性否定など、現在のトランプ政権が打ち出している政策と共通するものが多い。

 24年7月、トランプが副大統領候補に指名。選挙期間中には移民排撃の文脈で「彼らはペットを捕まえて食べている」などと発言して話題となった。同年11月のトランプ当選で副大統領が決まり、今年1月20日に就任した。

 トランプ陣営では多様性否定などで先頭に立っている。親プーチンで反ウクライナの発言は副大統領になるずっと以前からで、今回の騒動もバンスならそうなるだろうとの見方が多い。極右思想はトランプ以上で、仮に高齢のトランプが健康問題で職務執行困難になって、バンスが代行すればさらに極右政治となることは間違いない。その極右ぶりはトランプ支持層に人気があるため、今後のトランプ政権下の米国世論の動向によっては、次期大統領も十分にありえる。

 なお、トランプ政権ではバンス以外にも親プーチンの極右が多い。本連載でも既出のイーロン・マスクもその代表格だが、今回の停戦仲介では、プーチンの工作にまんまと引っかかった人物もいる。米政府の中東特使であるスティーブ・ウィトコフだ。

 彼はトランプのゴルフ仲間で資産1500億円を持つ不動産王である。外交経験など皆無だが、政治好きで、トランプの親友というだけで中東特使に任命された。ガザの人質解放交渉の仲介などを担当しているが、中東に広い人脈を持つロシアの政府系投資ファンド経営者から接触を受ける。実はこの人物はプーチンの側近で、そのルートで2月半ばにモスクワに招待された。米ロの囚人交換交渉という名目だったが、ロシア側に歓待され、プーチンとなんと3時間半も会談させてもらった。その間、ウクライナ政府の悪口をさんざん聞かされ、それを鵜吞みにし、トランプに伝えた。前述したトランプの「ゼレンスキーの支持率4%」発言はその直後のことだ。

 トランプは政府の専門家より、身内の側近や友人ばかりの意見を聞いて政策を決める。そこをプーチンはうまく攻めたわけだ。トランプ政権は親プーチンどころか、どんどんプーチンの掌で転がされるようになっているのが恐ろしい。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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