村田 最近まで、味覚は甘味・塩味・酸味・苦味の4つで構成されているとされていました。世界の料理人や学者は「旨味」は味覚じゃなくて概念だと言っていたんです。ところが、02年に味蕾(味覚の受容体)の中に旨味の受容体が見つかったんです。
魚住 その発見で味覚は5つと認識が変わったんですね。
村田 五味は人間にとって大事なもので、苦味は毒があるかもしれない、酸味は腐っているかもしれないという脳からのシグナルです。塩味はミネラル分、甘味はカロリー、そして旨味はタンパク質を感じます。
魚住 危険を知らせる味覚と、必要な栄養素を知らせる味覚だったんですか。
村田 そうです。でも、味覚は老化とともに鈍くなっていきます。一番早く鈍るのが苦味。今までドライビールを飲んでいた人が、ラガービールの方がうまいと思ったら、味覚がボケてきたシグナルです。苦味の次になくなるのは酸味。最後まで残るのが甘味です。カロリーがないと脳が働きません。だから、100歳近いおばあさんでも羊羹だけは食べてます。
魚住 苦味、酸味を感じなくなるのが老化の証拠なんですね。最後に読者にオススメの「おいしい」を教えてください。
村田 手前味噌になりますが、菊乃井の料理をぜひ食べにいらしてください(笑)。京都の「菊乃井 無碍山房(サロン・ド・ムゲ)」は気楽に来ていただけると思います。店名の「無碍」は「融通無碍」から取りました。仏教用語で「とらわれがなく、自由自在なこと」という意味です。
魚住 村田さんにピッタリの店名です。京都に行ったらぜひ、伺いたいと思います。
村田 お待ちしています。
ゲスト:村田吉弘(むらた・よしひろ)「菊乃井」三代目主人。1951年京都生まれ。立命館大学在学中にフランス料理研究のため渡仏。93年「菊乃井」三代目主人となる。現在、「菊乃井 本店」「露庵 菊乃井」「赤坂 菊乃井」を統括。12年「現代の名工」「京都府産業功労者」、17年「文化庁長官表彰」など様々な賞を受賞。18年「黄綬褒章」を受章。同年「文化功労者」に選出される。
聞き手:魚住りえ(うおずみ・りえ)大阪府生まれ、広島県育ち。慶應義塾大学文学部卒。1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。報道、バラエティー、情報番組などで幅広く活躍。04年に独立し、フリーアナウンサーとして芸能活動をスタート。30年にわたるアナウンスメント技術を生かした「魚住式スピーチメソッド」を確立し、現在はボイス・スピーチデザイナーとしても活躍中。