ほれ、みたことか! そんな声が聞こえてきそうな展開になっているのが、大相撲春場所だ。新横綱の豊昇龍は8日目に平幕の高安に押し倒され、早くも3敗目を喫した。
新横綱が前半戦で3敗したのは、1987年(昭和62年)九州場所の大乃国以来で、平成以降で初となる。
「ここまで豊昇龍は負けても取材陣に応答していましたが、この日は初めて取材拒否。それだけ追い込まれている証。ここまで2勝9敗と苦手にしていた高安が相手ながら、あまりにも一方的な内容でした。およそ横綱らしくなく、初場所後の横綱審議委員会で異論も出ずに、満場一致で横綱昇進を認めた横審への批判の声が再燃しそうです」(相撲ライター)
横綱審議委員会の内規には「大関で場所連続優勝した力士を推薦することを原則とする」とあり、これに満たなくても準ずる好成績であれば「出席委員の3分の2以上の決議を必要とする」と明記されている。
この「優勝に準ずる成績」という部分は曖昧で、時期によって厳しかったり甘かったりしてきた歴史がある。
先に挙げた大乃国の場合、1987年の夏場所に大関で全勝優勝を飾り、綱取りとされた翌名古屋場所は、14勝1敗で優勝した千代の富士と2勝差の12勝3敗。綱取りは失敗した。ところが翌秋場所を14勝1敗で優勝した北勝海に1勝差の13勝2敗の成績を上げると、九州場所では横綱に昇進している。
つまり直前の2場所で優勝していないにもかかわらず横綱に昇進したのだが、新横綱となった場所は前半戦で5勝3敗とつまずくと、後半戦を立て直せず、8勝7敗の無残な結果に終わった。
直後の1988年の初場所前に、やはり直前2場所で一度も優勝しないまま横綱になった双羽黒の廃業騒動を受け、横綱昇進の内規の「優勝に準ずる成績」部分が厳格化。以降、旭富士から日馬富士までは全員「大関で2場所連続優勝」して横綱に昇進している。
その後、2014年の夏場所に横綱昇進した鶴竜の場合、直前の春場所は優勝したがその前の初場所は白鵬に優勝決定戦で敗れるという内容で、平成以降で初の「前2場所連続優勝でない」横綱が誕生した。
続く稀勢の里も、2016年の九州場所に大関で12勝3敗と、優勝した鶴竜に2勝差をつけられるも、翌2017年の初場所に14勝1敗で優勝すると、横綱に昇進。
そして照ノ富士は2021年夏場所に大関で12勝3敗の優勝、綱取りがかかった名古屋場所は14勝1敗で、横綱・白鵬との千秋楽相星決戦に敗れたが、横綱に昇進した。
「大関で2場所連続優勝は高いハードルですが、稀勢の里や豊昇龍のケースはかなり甘い。当時の番付編成の都合などで、基準が甘くなったり厳しくなったりしていることがわかります。この曖昧な基準が、豊昇龍を短命横綱に追い込むかもしれません」(前出・相撲ライター)
技量が十分に伴わないうちに横綱に昇進して成績がついてこなければ、焦りから大きなケガを負うなど、かえって力士生命を縮めるリスクが出てくる。豊昇龍は協会や横審の都合に振り回されず、大横綱に成長できるかどうか。
(石見剣)