「最近は東スポ映画大賞で表彰しようにも、1年もたないのもいるな。9月に売れても東スポ(映画大賞ね)のある2月までもたないんだから困っちまうよ」
2月の末に開催された、殿が審査委員長を務め、今年で24回目を迎えた「東京スポーツ映画大賞」表彰式を終えた翌日の殿のお言葉です。同映画大賞は、映画人の他に、その年に活躍された話題の芸人さんなどを称える「エンターテインメント賞」があり、本来ならそこで表彰したい“昨今のあまりにもサイクルの早い一発屋”について殿は嘆いているのです。さらには、
「今はほんとサイクルが早くて気の毒だよな。努力だなんだって言ったって、本人の力じゃどうしょうもないところもあるからな‥‥」
と、浮き沈みの激しい芸能という世界で“残る”ことの難しさについても語っていました。そして、
「だけど一発屋なんて簡単にくくってるけどよ、一発当てるのがどんなに大変かわかってんのかよな」
と、“当てた芸人さん”をしっかりとリスペクトもされていました。
で、この時、殿の一連の語りを聞いていたその場の空気が“やっぱりたけしさんはいいこと言いますね。わかってらっしゃる”といったものになった瞬間、殿の中で〈まずい。ちょっと熱くまじめになりすぎたか?〉と感じたのか、急にトーンを変えて、
「そこで俺だよ。俺はやっぱり白いご飯なんだよ。どんなに新しい食べ物が出てこようが、変わった料理が流行ろうが、白いご飯はなくならないだろ。主食になったら勝ちなんだよ」
と、「たけし=白いご飯論」を冗談半分、本気半分といった感じで、みずから言い切ったのです。
この、自分で言い切ってしまう殿の“英雄的気質”の面白さはさておき、〈確かに〉と思いながらも、なんだか少しばかりふざけたくなったわたくしが「でも殿は、2回程食中毒を出してますよね」と事件&事故での人生におけるアクシデントについて軽くツッコませていただくと、
「そう、俺は2回出してる。だけど、どんなに食中毒を出そうが、白いご飯をやめるやつはいないだろ」
と、さらに強い形で「たけし=白いご飯論」を展開させるのでした。
こういった殿の、頭から否定することなく、一度ツッコミにのってから、最後は自信満々の答えを返す“やり方”が、わたくしはたまらなく好物です。殿はこういったやり方をプライベートでは多用されます。
で、この「たけし=白いご飯論」に気をよくしたのか、殿はダメを押す形で、こうも言ったのです。
「ライオンになったら勝ちなんだよ。動物園のライオンはオリの中で寝てても客が見にくるけど、猿は芸をしなきゃ人が集まって来ないだろ。その差だよ」
最後には、“生きてるだけで価値が十分ある。近づくのは怖いけどよく見たい。そんな百獣の王ライオンと自分は同じである”といった新たな自論を強く推し進めるのでした。
◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!