美術品のオークションには時に、とんでもない値がつく作品、発掘された名作、珍作が出品される。そしてこれは美術品と呼んでいいのか、なんと100年ほど前に撮影された「心霊写真」が、イギリスの美術品オークションハウス・ソーダーズに出品されたことがある。
オカルトマニアがざわめきたった昨年7月のこの出来事は、ソーダーズの説明によれば、1920年代、あるいは30年代に撮られた4枚の幻灯スライドセットの登場。構図などからイギリスの有名な心霊術師グループ「クルー・サークル」のメンバーで心霊写真家の、ウィリアム・ホープの作品に似ていた。心霊術師グループの会合などで、スライドとして使用されたものではないか、ということだった。
ウィリアム・ホープとは何者か。20世紀初頭、自分には心霊写真を撮る能力がある、としてスピリチュアリストの間で名を馳せた、イギリス人男性だ。心霊写真家グループを創設すると、仲間とともに、第一次世界大戦で家族を亡くした人々に対し、「まだ魂は霊としてあなたの身近にいますよ」と告げ、それを証明する写真を撮影しては遺族に販売。ロンドンで巨万の富を築いたとされている。
「シャーロック・ホームズ」の著者として有名なアーサー・コナン・ドイルがホープの熱心な支持者として知られ、ホープら心霊写真家たちの正当性を主張するために「The Case for Spirit Photography」なる著書まで執筆している。
ところが、出る杭は打たれるのは自然の流れ。「心霊写真撮影」などという、うさん臭い仕事で巨万の富を得たホープに懐疑的な科学者らにより、心霊写真検証が行われた。
するとホープが撮影した心霊写真には、その大半に二重露光や撮影トリックが施されていることが判明。ネガを作るためにガラスの感光材を使用したり、亡霊やエクトプラズムに見えそうな煙をカメラの前に吹きかけることで、いかにもそこに幽霊が写り込んでいるようなものが出来上がったというのである。
さらには写真プリントの工程で、1枚の印画紙に複数のネガをプリントして、幾重にも見せる手法を駆使していたことも発覚。これは1922年に発行された米科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」に特集記事として掲載された。
ところがホープは撮影方法を暴露された後も、全く怯まなかった。というのも、ホープの写真には絶大な支持があり、ドイルも文字通り、そのひとりだった。
現在、ホープの心霊写真は、イギリスのブラッドフォードにある国立メディア博物館に展示品として並んでいる。ちなみにソーダーズに出品された「心霊写真」は、350ポンド(約6万9000円)で落札されたという。
稀代のイカサマ師が作成した「心霊写真」は今も、マニアにとってはなかなかのモノのようだ。
(ジョン・ドゥ)