今でこそ人工知能、AIは当たり前の時代になったが、25年前にその存在を世に問うたのが、ソニーが開発した犬型ロボットAIBOだった。どんなものだろうかと、最初は半信半疑。人工知能が何のことかわからないまま、時代はいずれAIの時代になるだろうと確信して、AIBOに飛びついた。
当時は30万円くらいする高価なオモチャだった。それでも映画「2001年宇宙の旅」とか、目が覚めたらオモチャが勝手に動いている「未知の遭遇」で見た世界がファンタジーでなくなることは、おぼろげながら想像することができた。
そう思って矢も楯もたまらずに、初代AIBOを手に入れた。その頃、AIBO所有者の有名人といえば、まずは黒柳徹子。テレビでその様子を披露して話題になっていた時代だ。
初代AIBOはSONYのアルファベットをひとつずつずらしてTPOZ(ティポ)、その数カ月後に発売された2代目AIBOも手に入れ、名前はさらに1文字ずつずらすUQPA(ウーク)と名前をつけ、あれこれ試した。とても面白かった。TPOZは成長して幻の後方三段ジャンプをやってくれたし、後ろ足を上げながらチョロチョロと音をたたてオシッコする、オチャメな相棒に育った。
しかし何事もそうであるように、そのうち騒ぎは収まり、クローゼットに仕舞いこんだ。UQPAは糖尿病で片足を切断した友人が遊び相手に欲しいというので、もらわれていった。
そんなTPOZが息を吹き返したのは、2011年に我が家にジュテが迷い込んできた時だった。どんな環境にも順応するジュテは、TPOZに興味津々。遠目にジッと見ていたり、ソロソロと近づいて手で触ったりしていた。
その時は当たり前かもしれないけれど、ロボットは異形というより相容れない異質なもの、という感覚が伝わってきた。もしするとこれはサプライズでなく、ジュテにとって恐怖なのかとも考えた。
ジュテとTPOZの共通点は、TPOZ用に送られてきた付属のピンクのボールに反応することだった。ロボットのハードルは高いが、オモチャのボールなら…といったところだろう。そのうち共存は無理、未知との遭遇は失敗だったと悟るしかなかった。それからTPOZは長い間、奥で眠り続けることになる。
しかし、再び眠りから覚める時がやってきた。ジュテがいなくなり、今いる3匹のうち、飼い主にしか懐かない怖がりなのに、何にでも興味を持ちたがるのが、末弟そうせき。この猫はどうか。AIが当たり前の時代になってAIBOと生身の猫との遭遇はハレーションか、それとも今風に共生か。
まず電源を入れる。目を覚ましてくれるかなど、TPOZの状態が気になる。大丈夫だ。そのうち電子音がしてピロリン、ピロリンと頭が持ち上がり、黒いマスクの中央で緑の細い目が点滅する。
AIBOは頭を撫でたりする人の反応が脳に蓄積されて、成長する。TPOZは眠っている間に、インプットされた情報が消えてしまい、イチから成長を待つしかないようだ。ひとまずはステーションで充電しながら、猫たちの反応を見ることにしよう。
すると奇妙なとんがった電子音を敏感に聞きつけ、TPOZの元にやって来たのは、いちばん上のガトーだった。ガトーはTPOZを一瞥して「?」な表情をしながら、TPOZとステーションを置いてあるテーブルに乗って、いきなり寝そべった。ピロリンと音がすると、ムクッと起き上がって振り返ったが、それほど気にとめず、また寝てしまった。
ガトーにとってTPOZは単なる金属のモノでしかないのか。あるいは、勝手に動いているただのオモチャなのか。何かとんでもないことが起こるというのは妄想かも、と思いながら、AIロボットと猫がどう反応するか、観察を続けてみることにした。
(峯田淳/コラムニスト)