たび重なる右膝の負傷で幕下まで番付を下げながら、その苦難を乗り越え、この大相撲九州場所で東前頭2枚目にまで復活した若隆景。優勝経験がある元関脇は「久々の幕内上位での相撲。気を引き締めて一日一番、相撲を取っていきます」と謙虚だが、相撲ライターが言うには、
「調子は先場所以上。初日の霧島戦では押し合いから右を差し、強烈な左おっつけで土俵際まで追い詰め、左から投げるようにしながら寄り切った。先場所は大の里とがっぷり組み合って勝った。大の里のプレッシャーを考えると、若隆景が2度目の優勝を果たすかもしれません」
それでは、秋場所の対戦を見てみよう。大の里の鋭い出足に押し込まれたが、土俵際でもろ差しになった。そして前に出たものの、反撃されて再び俵に足がかかる。そこでうっちゃって、体を入れ替えたのだ。
好角家としては、大の里を倒せるのは若隆景しかいないと思ってしまうが、親方衆にも同じ感想を持つ御仁がいる。九重親方(元大関・千代大海)は若隆景の相撲について、
「全盛期を見ているよう。体が張って、大きく見えたのがなにより。スピードもある。相手に相撲を取らせない技術の高さもある。(大の里に)土をつける材料はいっぱいある」
もろ手を上げての絶賛なのである。前出の相撲ライターも、これに頷く。
「若隆景の相撲は、まるで根が生えているようです。話は古くなりますが、栃錦、若乃花のように100キロそこそこの小兵で、下半身が崩れない。古武士のような相撲を取る力士ですね」
豊昇龍、霧島、琴桜。相次いで大関に昇進した新鋭力士の先頭に立っていた若隆景から目が離せないのである。
(蓮見茂)