4月4日、トランプ大統領が米政府の国家安全保障部門の10人以上の幹部職員を解任したことが明らかになった。その中には、米国防総省の情報機関「国家安全保障局」(NSA)のティモシー・ハウ長官(米サイバー軍司令官兼任)とウェンディ・ノーブル副長官、さらにホワイトハウスの国家安全保障担当官房組織である「国家安全保障会議」(NSC:統括者はマイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官)の上級幹部たちも含まれていた。
解任の理由は発表されていないが、極右系陰謀論インフルエンサーのローラ・ルーマーがホワイトハウスでトランプと会談した直後のことで、米メディア各社は「ルーマーがトランプの敵対者リストを提示し、その中に名前があった幹部たちだった」と報じている。「ニューヨーク・タイムズ」の報道では、そのリストを受け取ったトランプが「なんで彼らは雇われているのだ!」と激怒して解任を命令したとのことである。
このルーマーについては、本連載でも昨年10月に紹介している。現在31歳の彼女は大学在学中から極右系サイトを拠点に言論活動をしてきたインフルエンサーだが、「9.11テロは米政府の自作自演」「民主党上層部は影の権力集団“ディープステート”」などの陰謀論ばかり。第1期政権時にトランプを熱烈に応援する活動が認められて側近になったが、トランプに敵対すると見なした人物を激しく攻撃する言論が特徴だ。その主張にはほとんど根拠はないのだが、トランプ本人が彼女を「敵を見つけ出す稀有な能力の持ち主」と認識しており、何かと彼女を傍らに近づけてきたという経緯がある。
今回のNSCやNSAの幹部についても、単にトランプに批判的だったバイデン時代に昇進したといった程度のことだったようだが、トランプはルーマーの話を鵜吞みにしたわけである。
こうしてトランプは陰謀論インフルエンサーの助言で、米政府の安全保障部門を着実に弱体化させるというトンデモぶりを露呈しているが、そんなトランプ政権の最大の特徴は、このように政府機関よりも“自分を褒める側近”の話ばかり聞くことだ。しかも、トランプがお気に入りの側近には、30~50代前後の白人のハデ目の女性が多いという特徴もある。中でも注目されるのが、トランプ政権の広報担当のナタリー・ハープである。
ハープは33歳。カリフォルニア州の不動産業者の家庭に生まれ、福音派系の大学でMBA(経営学修士)を取得して卒業し、ホテル管理会社に勤務するが、骨肉腫を患い、闘病生活を送った。19年にFOXニュースに出演する機会があり、そこで「トランプ大統領の政策で先進治療が受けられ、命を救われた」と発言。それをトランプが気に入って、陣営に加わる。20年の大統領選挙でもトランプ陣営に参加し、共和党全国大会にも登壇している。翌21年、トランプ支持派のケーブルTV「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク」(OAN)のキャスターとなり、トランプ陣営での発言力が高まった。
ハープは大統領選でトランプがバイデンに敗北したことに関して、民主党による不正な票操作、いわゆる「選挙が盗まれた」キャンペーンの中心人物となり、その後もトランプ擁護を進めた。23年、OANを辞めてトランプの広報担当となり、以後、常にトランプの傍らで秘書的な役割を担うようになった。
それ以降、ハープはトランプの最側近といえる存在になっている。プリンターを常に携帯し、ネットで拾った情報を印刷し、随時、トランプに手渡すのだ。そのため、関係者には「人間プリンター」などと揶揄する向きもあるが、つまりはトランプが目にする情報を取捨選択しているのがハープというわけだ。
問題は、それらの情報がトランプが喜びそうな情報に偏っていることで、しばしばそれは極右のフェイク情報であり陰謀論でもある。トランプはしばしば陰謀論的な声明を発するが、そのいちばんの情報源が彼女なのだ。また、トランプは常にSNSで声明を発信しているが、それもトランプの口述をハープが代筆している。
当然ながら24年の大統領選でも最側近として常に傍らにいたが、新政権ではそのまま広報担当として、大統領執務室のすぐ横にデスクを持つ立場となった。物理的な距離でも、トランプに最も近い存在なのだ。
もっとも、彼女の立場は事実上、広報担当という範囲をはるかに超えている。現在も、トランプが日常的に目にするニュースやネット情報などは、ハープが選択して手渡すものだ。時には会議中にプリントを手渡してトランプを誘導するような場面もあるという。ホワイトハウスの広報部門を通さず、勝手に極右系メディアの取材を入れることもしばしばあるようだ。
特に公式な役職もない彼女のこうした振る舞いはホワイトハウスでも異色だが、トランプはハープを全面的に信頼しており、彼女を「スイーティー(かわいコちゃん)」と呼んで、まるで実の娘のように扱っている。現在も、トランプの外出時には、当然のように付き従っている。
最後に、トランプのスタッフではないが、有力なトランプ応援団の美女をもう1人、紹介したい。ナタリー・ハープの古巣のOANのキャスターであるシャネル・リオンという女性だ。
リオンは現在34歳。28歳でOANに入社し、29歳でホワイトハウス特派員となる。記者会見では徹底したトランプ擁護・反民主党の姿勢で注目されたが、親トランプ系陰謀論アカウント「Qアノン」を宣伝するなど、しばしば陰謀論を拡散して物議を醸した。彼女もトランプのお気に入りで、良好な関係を築いたもののトランプ政権には入らずに、現在は自身の冠番組「シャネル・リオンのファインポイント」のキャスターを務めている。
トランプの3度の結婚相手は全員モデルだったが、彼はとにかく周囲に白人の美女がいるのがお好みのようだ。
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)