政治

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈五輪後のパリは燃えている〉

 パリ五輪の熱戦が続くフランス。だが、政府はちょっとした緊急事態にある。

 フランスは大統領と首相の両方が存在する国なのだが、現在、首相率いる内閣が総辞職したものの後任が決まらないため、暫定的に前内閣が継続している。つまり、正規の首相が不在なのだ。国家元首は大統領だが、国内政治の多くを司る首相が名前だけの暫定というおかしな状況なのだ。

 これは、大荒れの政局に原因がある。7月7日の国民議会選挙で、マクロン大統領の与党が惨敗したが、選挙を戦った各勢力のどれもが過半数を確保できず、新内閣を組織できないまま五輪に突入。そこで、マクロン大統領が、とりあえず首相指名を延期することを決めたのだ。いわば、政局の〝五輪休戦〟である。

 さて、そんなフランス政界で、今まさにカギを握っているのが、議会選挙で第一勢力となった「新人民戦線」だ。選挙のために主要な左派政党が連合してできた新人民戦線、この勢力が中心となって次の内閣が組閣されることになる。この左派連合の中で、もっとも議席を持つのが急進左派の「不服従のフランス」(LFI)という政党で、そのキーマンが同党のジャン=リュック・メランション代表(72)である。ところが、この人物がなかなかのクセモノなのだ。

 もともと教師だったメランションは若い頃から社会党員として活動し、30代から地方議員・市長を務め、35歳で国会(上院)議員になった。急進左派の論客として当選を重ね、00年から02年までは職業教育大臣も務めている。

 08年に社会党を離党して左翼党を結成し、党首となる。アクの強い個性派が多い左派勢力の中でも、左翼ポピュリスト的姿勢を前面に出し、12年、17年、22年と大統領選挙に挑み続けた。

 昔ながらの左翼思想が露骨に表れるのは、その外交政策での主張だ。主眼は米国中心の陣営と距離を置くこと。それゆえ、中東や中央アジアなどでの対テロ戦争からの撤退、国連安保理決議なき軍事介入への反対はもちろんのことNATOからの離脱、EUからの離脱まで訴えている。ゴリゴリの「反米」思想は「親ロシア」と結びつく。ウクライナを侵攻したことにも同情的で、ロシアの立場を重視した交渉を主張。メランションは「クリミア半島はロシアに与えるべき」とまで断言している。

 仮に、彼がフランス政治の主導権を握った場合、ロシアだけでなく台湾などへの侵略の野望を隠さない中国も含めた非民主勢力に対抗する西側諸国の結束を乱すことは必至だ。

 こんなオールド左翼がフランス政局のキーマンになってしまったのは、6月9日の欧州議会議員選挙、さらに6月30日のフランス国民議会・第1回投票で、いずれも極右勢力が大躍進したことが背景にある。このままではまずいという危機感から、普段はあまり投票に行かない若者層が7月7日の第2回投票に足を運び、一気に投票率を上げた。そして、極右に対抗するなら左翼だろうということで新人民戦線に票を投じたのだ。ところが、新人民戦線は多くの小組織の寄り合い所帯で、そんな陣営の中では比較的組織力があるメランションの政党が主導権を握る状況になってしまった。極端な「右」の台頭を止めるために、極端な「左」が分不相応な発言力を持ってしまったという構図なのだ。

 棚ボタでキーマンになったメランションだが、左翼陣営でもロシアのウクライナ侵攻に批判的なリベラル勢力とは断絶しており、新人民戦線内をまとめる求心力はない。ただただ政局を乱す存在になっている。

 フランス政局で台風の目となっているのは、何も急進左派だけではない。

 国内政治の失政でマクロン大統領の与党「アンサンブル」(中道右派)は、今回の国民議会選挙ではかろうじて第二勢力に留まった。だが、なんと95議席減で、もはやオワコン感が顕著である。先にも述べたように、新人民戦線は47議席増で第一勢力となったが、それ以上に議席を伸ばしたのが、極右政党「国民連合」である。53議席増やして、第三勢力となっている。今後、極右勢力もマクロン大統領の政策の足を引っ張る可能性もあり、フランスの民主主義は危機を迎えると言ってもいいだろう。

 その極右政党・国民連合を率いてきたのが、マリーヌ・ルペン(56)だ。彼女はフランスの有名な極右政治家であるジャン・マリー・ルペンの娘という二世政治家である。

 かつてナチス・ドイツに蹂躙された経験を持つフランスでは、極右勢力は長らく日陰者扱いだったが、父ルペンは1950年代から極右活動を続け、70年代に極右政党「国民戦線」(現・国民連合)を創設。冷戦終結後、しばしば舌禍事件を起こすなど際立ったキャラクターもあいまって、そこそこ注目される人物だった。特に、00年代以降は移民批判や反米右翼の言動がウケて、徐々に支持者も集めた。高齢のため、10年に政界を引退。その跡を継いだのが三女のマリーヌだった。

 マリーヌ・ルペンは大学卒業後、弁護士となったが、父ルペンの政治活動を補助。03年に国民戦線の副党首となり、父の引退で11年に党首になった。12年の大統領選で健闘。17年の大統領選では第1回投票で2位につけた。21年に、翌年の大統領選挙へ専念するために同党の党首を退任し、現在は同党の国会議員団代表だが、今も彼女が事実上のトップである。

 マリーヌ・ルペンは極右だが、実はロシアとの関係が深い。国民連合はもともとロシアから資金援助を受けていた。もちろんロシアによる抱き込み工作だが、それにどっぷりと浸かっており、一貫してプーチン支持を明言している。

 このように現在のフランス政界では、急進左派リーダーで「プーチン大好きおじさん」のメランションと、極右リーダーで「プーチン大好きおばさん」のマリーヌ・ルペンがカギを握るという〝極端なキャラクター祭り〟になっている。プーチンはさぞ喜んでいることだろう。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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