テリー 前から自分のライブの衣装は自分でデザインしてたんだよね。
篠原 はい。でもいちばん最初、まだ10代の頃に「篠原はデザイナーになるといいよ」って唯一言ってくれたのが吉田拓郎さんだったんです。
テリー へぇ!
篠原 その時は「デザイナーになりたい」なんてまだ周りに話していなかったんです。だから「じゃあ、これから自分のお洋服も徹底的にデザインします」って拓郎さんに言ったら、「自分の洋服じゃない。あふれるアイデアは、人にささげるものなんだよ」って言われて。
テリー かっこいいね。
篠原 自分だけでアイデアを持っていても、その気持ちはまったく動いていかなくて、人にアイデアを全部渡すことで心地よくなるはずだっていうことを、拓郎さんが教えてくれたんですよね。
テリー 拓郎さんが自分の曲を人に提供してるっていうのは、そういう感覚なんだろうね。
篠原 その拓郎さんの言葉が、10代、20代の悩んでいた時に、すごく力になったんです。だからユーミンさんの話が来た時に、いちばん最初にメールしたのが拓郎さんでした。
テリー どういうメールが返ってきたの?
篠原 「本当におめでとう。アイデアでユーミンさんを輝かせるのがお仕事だよ」と。
テリー 拓郎さんもうれしかっただろうね。篠原の衣装を着たユーミンのコンサートを会場で見た時は、どんな気持ちだった?
篠原 ユーミンさんがステージにお出になると、「ウワーッ」ていう歓声が上がるんですよ。その時に、自分が体感する以上にうれしいと思ったんですね。私はそれまで自分が衣装を着て、派手になって、私自身が注目されることがいちばん喜ばしいと思っていたのに‥‥人を輝かせることがこんなにもうれしいんだって感じました。作り手の快感を覚えたんですよね。
テリー わかる。僕も演出家だから。自分以上にその人が盛り上がったほうが、こっち側はうれしいよね。自分が出てやるのは、どこかためらいみたいなのがあるんですよ。
篠原 私はテリーさんの「ものの作り方」って、人間力をすごく信じてるように思えるんです。タレントに完全にお任せする演出というよりは、何かを提案して、その提案によって人間の心がどうおもしろく反応したり、作用するかっていう、ちょっと実験的なイメージがあります。だから「出演者の人間力を信じているんだな」という印象なんです。
テリー そんなふうに感じてくれていたんだ、ありがとうございます。ユーミンの衣装デザインが大成功して、そのあとにまたオファーが殺到したでしょう。
篠原 はい。アイドルの衣装や、コンテンポラリーダンスの衣装を手がけさせていただきました。
テリー スタートがユーミンだから、篠原のキャリアは最強だよな。
篠原 でも、プレッシャーもありました。ユーミンさんの衣装をするって、デザイナー界でも憧れの目標なんですよ。
テリー それはそうだよな。でも、それだけ篠原にデザイナーとしての才能と実力があるっていうことだよ。
篠原 機会をくださった正隆さんに感謝してますね。