あまりに暑すぎた夏の反動でしょうか、今年の9月は例年よりは厳しくなく、この稿が出る頃にはすっかり秋の気配が深まっていることと存じます。
秋といえば、運動の秋、レジャーの秋などいろいろありますが、いずれにしても体を元気に動かせなければ、せっかくの秋を楽しめません。そこで今回は「膝の痛み」についてです。
前回の「五十肩」では、ふだんあまり運動をしない人が、急に体を動かそうとした時が危ない! と、お話ししました。それに対し、膝の痛みは急に訪れるものではないようです。最初は小さな痛みが時々起こり、それが徐々に強くなって、何かの拍子で歩けなくなるほどの激痛が走るというケースがほとんどでしょう。
中高年の膝のレントゲン写真を撮ると、何かしらの異常が認められる人は約2500万人にも及び、このうち、膝に痛みのある人が800万人もいます。膝の痛みのために生活の質を落としている人も多いのではないでしょうか。
膝の痛みの原因の大半を占めるのは、「変形性膝関節症」という病気ですが、これを病気として認識するようになったのは20世紀に入ってからです。それ以前は単なる老化現象として捉えられていました。しかし研究により、膝の関節にある軟骨がすり減ってくることで、さまざまな障害が生じることがわかってきたのです。
「変形性膝関節症」は、進行すると膝の関節が変形し、激しい膝の痛みを引き起こします。そのまま放置すると、歩くこともままならず、車椅子や寝たきりの生活を余儀なくされることもあります。そんな悲惨な思いをしないよう、今のうちから膝痛の改善に取り組みたいものです。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。
体形や日常生活から変形性膝関節症になりやすい人がいます。【1】~【5】のどれかに当てはまれば、変形性膝関節症の予備軍である可能性があります。
また変形性膝関節症は、進行度に応じて自覚症状が異なります。もし今、膝に痛みがあれば、どの程度進行しているのかをセルフチェックしてみましょう。【6】【7】に当てはまる人は、ほとんどの場合、膝にあまり負担をかけないようにしながら太腿の筋肉を鍛える運動療法で改善できます。【8】~【10】に当てはまる人は、軟骨がすり減ったり、骨の隙間が狭くなったり、骨自体にも問題が生じている可能性あり。運動療法の他に保存療法や手術が必要な場合もあります。一度、整形外科を受診したうえで、対策を講じましょう。
関節とは、骨と骨とが接する部分を言いますが、骨同士がじかに接しているわけではありません。「軟骨」という滑らかな組織が骨の両端を覆い、それがクッションの役割を果たすことによって、骨同士が直接ぶつからないようになっています。膝を曲げたり伸ばしたりといった動きがスムーズにできるのも、この軟骨があるおかげです。
しかし、関節の軟骨は、厚さがわずか3~4ミリと非常に薄く、加齢や肥満、運動や仕事による関節の酷使などによってすり減りやすくなります。また、膝の一定部分に負担がかかりやすいO脚やX脚の人は、さらにそのリスクが高まります。
軟骨がすり減ると、骨同士が接触しやすくなって、炎症を起こしたり、骨の位置がズレたりします。こうした状態にあることを「変形性膝関節症」と言い、進行すると激しい膝の痛みや関節の変形につながります。
実際、膝の痛みの原因で最も多いのが「変形性膝関節症」ですが、関節リウマチ、半月板損傷、痛風(膝に起こることもある)、大腿骨顆部骨壊死などによる痛みもあるので、まずは整形外科で正しい診断を受けることが大切です。
膝は、太腿の骨(大腿骨)と、すねの骨(脛骨)をつないでいる関節ですから、太腿の筋肉である大腿四頭筋を鍛えることで改善される場合が多いです。あきらめずに運動療法にチャレンジしましょう。ただし、進行している場合(【8】~【10】に当てはまる人)は、対処法を間違えると悪化させるおそれがあるので、医師の診断や診察を受けたあとに行ってください。
ここでは変形性膝関節症の運動療法として知られる4つの運動を紹介します。
(1)椅子で脚上げ体操(腰に負担をかけずに、膝痛を解消!)
【1】椅子に浅めに腰かけ、手は椅子の縁を持つ。
【2】片方の脚を直角に曲げ、もう片方の脚は伸ばすか、軽く曲げて前方に置く。
【3】膝はそのままの形で、腿の筋肉の力でかかとを床から10センチ上げる。1セット左右各20回。やや前かがみの姿勢で行うのがポイントです。
(2)脚上げ体操(基本となる体操)
【1】あおむけに寝て、片方の膝を立てる。
【2】伸ばしたほうの脚を曲げずに床から10センチ上げ、5秒間静止してゆっくりと戻す。
【3】20回繰り返したあと、反対側の脚も同様に行う。
【4】ラクにできるようになったら、足首におもり(最初は500グラムぐらいから)をつけてやるとさらに効果的。この時、膝は伸ばした状態でも曲がったままの状態でもOKです。
(3)ボール体操(内転筋群を鍛えてO脚を予防!)
【1】床に腰を下ろし、膝を少し曲げ、膝に当たらないように太腿の間にボールを入れる。
【2】腿にゆっくり力を入れてボールを強く挟み、5秒間静止して力を抜く。1セット20回。ボールを持ち上げたり膝を曲げすぎると安定しないので、ボールは床につけて行いましょう。
(4)膝伸ばし体操(痛みがやや強い時におすすめ)
【1】脚を前に伸ばして床に座り、二つ折りにした座布団を膝下に置く。
【2】膝は自然に軽く曲げ、かかとを床につける。
【3】片方のかかとを上げて膝を伸ばし、5秒間静止してゆっくり戻す。
【4】20回繰り返したあと、反対側の脚も同様に。1セット左右各20回。
効果を自覚できるまでには少なくとも1カ月はかかるので、根気よく続けることが大切です。自分に合ったものを毎日継続的に行いましょう。なお、痛みが強い時や、膝が腫れて熱を持っている時は、運動療法は控えてください。
──膝痛(変形性膝関節症)チェック項目──
【1】50歳以上である
【2】肥満である
【3】O脚、もしくはX脚である
【4】太腿の筋肉(大腿四頭筋)が衰えている
【5】膝に負担がかかる運動や仕事をしている
【6】朝、起きた時に、膝がこわばる
【7】体を動かし始めた時に、膝が痛む
【8】階段を上り下りする時、膝が痛む
【9】膝の曲げ伸ばしがしにくい
【10】膝が痛くて歩きにくい
※【1】~【5】のうち1つでも当てはまれば、変形性膝関節症の予備軍です。【6】~【10】は変形性膝関節症の進行度の目安です。詳しくは本文をご覧ください。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。