才女だった。女優として清純な朝ドラヒロインから過激な役まで演じ分け、さらに小説家としても名を成す。そんな高橋洋子(62)の出発点は、自身とシンクロする、あの映画だった。
── つい先日、27歳の時の一糸まとわぬ姿が週刊誌に掲載されていましたね。
高橋 載ってたねえ。私でいいのかしらと思ったよ。
── 視聴率が50%を超えた朝ドラ「北の家族」(73年、NHK)だけでなく、第48回キネマ旬報日本映画ベストテン第1位に輝いた「サンダカン八番娼館 望郷」(74年、東宝)など、70年代の女優業は目をみはります。その一糸まとわぬ姿は貴重でしたよ。
高橋 あの頃は関根恵子さんや桃井かおりさんも、映画では必ず脱いでいた。そういう時代だったのよ。
── 桃井かおりは文学座の1期先輩。そして松田優作が同期ですね。
高橋 桃井さんはいつもいいもの着てらして、聞くとやはり、いいところのお嬢さんなんだと。優作さんは自分が望む高みに早くたどりつきたいといういらだちを感じたな。とにかく気性が荒かったから。
── 文学座に入った72年、早くも「旅の重さ」(松竹)で主演デビューを飾っています。
高橋 実は文学座には内緒で書類を出したの。そしたらオーディションに行かなきゃいけない日に、たまたま稽古場にフジテレビのプロデューサーが来ていて。
── 当時は各局のプロデューサーが、文学座の“金の卵”に目を光らせていたでしょうから。
高橋 その日、運悪くというか、私が気になったみたいで近くの喫茶店に呼ばれて。オーディションの約束の時間を2時間も過ぎていたけど、私、とにかく走って行ったの。汗で髪の毛がペタリと貼りついているような感じで。
── それは、劇中で旅を重ねるヒロインのイメージそのままです。
高橋 そうなの、斎藤耕一監督が「汗が似合う子が欲しかったんだ!」と即答して。ただ、それまでは同じオーディションを受けた秋吉久美子さんで決まりかけていたの。松竹の人も「この役だけなら高橋だけど、伸びしろを考えたら秋吉ですよ」って言ったけど、監督だけが私で譲らなかったわね。
── デビュー作で早くもヌードシーンがありました。
高橋 でも、日活ロマンポルノみたいにアダルトじゃなかったしね。共演の横山リエさんと並んで、上半身だけ脱いでいる感じだったから。
── 翌年には「北の家族」のヒロインとして全国区の知名度を得ました。
高橋 父親役が劇団民藝にいらした下元勉さんで、母親役が俳優座出身の左幸子さん。演技に対する考え方が違うから、私の前でもケンカしてばかり。左さんが「お父さんはどうして私の目を見て芝居してくれないの?」って言うと、下元さんは「お前の目張りが気に入らねえ!」って、お茶をかけ合いながらケンカしてたなあ‥‥。
── 新人女優としては、鍛えられる形でしたか?
高橋 よく左さんに言われたのは、「リハーサルのあとにセリフは1回忘れなさい」ということです。「いかにも今、覚えましたっていうセリフは視聴者に見抜かれるから」と。それはすごく参考になりましたね。デビュー作の「旅の重さ」で共演した三國連太郎さんといい、同期の優作さんといい、野性的な役者さんがあの頃は多かったです。
── 作家に転身した80年代以降、女優業はペースダウンしているようですが、そろそろ妖艶な熟女の魅力を振りまいてください。