独裁者が独裁者を「この独裁者め!」と罵れば、罵られた独裁者は「あんたのほうが独裁者じゃないか!」と罵り返す。回文でも早口言葉でもない。実際に、読売新聞社の会長と大阪市長との間での“大論争”なのだ。あまりに見苦しい内幕を以下――。
果てなき“独裁者バトル”の口火を切ったのは、読売新聞グループ会長の渡辺恒雄氏(85)だった。
契機となったのは、渡辺氏が文藝春秋4月号に寄稿した「日本を蝕む大衆迎合政治」と題された論文。
「大阪維新の会」の「船中八策」に掲げられた個別の政策を論じたあとに、本題を切り出したのだ。
〈もっとも危惧するのは、個々の政策よりも、次のような発言だ。『選挙では国民に大きな方向性を示して訴える。ある種の白紙委任なんです』(朝日新聞2月12日付)。この発言から、私が想起するのは、アドルフ・ヒトラーである〉
もちろん槍玉にあげられたのは、橋下徹大阪市長(42)だ。ヒトラーが首相になったとたんに「全権委任法」を成立させたことになぞらえて、橋下氏の「白紙委任発言」をファシズムへの危険な兆候だとしている。
さらに、橋下氏がワンフレーズで「抵抗勢力」に一撃を加える手法が、電子メディア隆盛の現代にもてはやされている一面も指摘している。
橋下氏にはヒトラーばりの独裁者になる“素養”がある。そのうえ“環境”が整いつつあると言いたいのだ。つまり、「ナベツネ流」の危機感を表明したものだった。
対する橋下氏も黙ってはいない。あえて、渡辺氏が
〈ワンフレーズポリティックスにはうってつけ〉と評した電子メディア、ツイッターで「口撃」を開始したのだ。
まず、渡辺氏が〈理解できない〉とした政策に関して丁寧に説明。そして、肝心の渡辺氏がヒトラーになぞらえたことに反論する。
〈(ヒトラーにだぶらせているのは)論理の飛躍〉
ここまでつぶやいて食事休憩を挟み、約1時間後に再び反論を開始した。
〈ヒトラー独裁の時の統治機構・メディアの情況と今のそれを比較して独裁云々を論じなければならない〉
公正な選挙で権力者が選ばれている現在、メディアの権力監視も厳しく、独裁など不可能だと主張。そして、「白紙委任発言」の真意を説明したうえで、最後にこう締めくくるのだ。
〈独裁なんてやりようがないですよ。所詮、ローカルの大阪市役所の所長ですしね。それに比べれば、渡辺氏の方が読売新聞社だけでなく政界も財界も野球界も牛耳る堂々たる独裁じゃないですかね!〉
この論争に関して、ジャーナリストの吉富有治氏はこう話す。
「渡辺さんは、『白紙委任発言』を許すような社会の感覚が問題だとしている。これ自体、しごくまっとうな意見だと思います。一方、橋下さんの反論は首をかしげたくなります。
『今の統治機構では独裁は無理』と反論していますが、そういった統治機構を変えようとしているのが橋下さんなわけですから‥‥