今や「将来の総理候補」と呼ばれる小泉進次郎衆院議員(34)。周囲から「政治家として一皮剥けてほしい」との願いを込められ、自民党農林部会長の大役を任された。その真価が問われる「TPP説得行脚」に臨んだのだが‥‥。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の大筋合意を受けて、北海道から九州まで全国7道県を回る「TPP地方キャラバン」が11月6日から始まった。農林部会長として進次郎氏はさっそく、兵庫県へと足を運んだ。6日には神戸市で畜産農家や関係団体と、7日には加西市の農業大学校で米や野菜の生産農家らとの意見交換会に出席したのだ。
両日ともに3時間にも及ぶ白熱した議論を展開。満足した様子で、最後に進次郎氏はこう締めた。
「予想以上の成果があった。東京で議論するよりも現場のことがわかる。今後も地方キャラバンをやりたい」
この爽やかなコメントは多くのメディアが報じ、進次郎氏の活躍を喧伝した。
「これでは安倍政権の思惑どおりですよ」
とは政治部デスク。さらに、こう続けるのだ。
「進次郎氏は農林部会長就任直後の挨拶で『誰よりも農林の世界に詳しくない』と言ったように、まったくの門外漢。そんな進次郎氏をTPPで不満が高まる農家の矢面に立たせた狙いは、来夏の参院選対策ですよ。TPP対応に自民党が熱心であることを、進次郎氏の活躍を通じて発信しようということ。いわば、進次郎氏は“客寄せパンダ”です。また、農家の自民党への怒りも、あのイケメンを前にすればやわらぐだろうと踏んだのでしょう。農家の怒りを鎮める“ガス抜きパンダ”の役割も担っていると言えますね」
では、実際に期待される役割を果たせたのか。
7日の意見交換会では、女子学生に笑顔で出迎えられ、当日の曜日を間違えるご愛嬌を見せて、ハートをキャッチ。議論が始まると、地元産ミニトマトを手に、
「実は生トマトが苦手だったんですけど、最近、克服し始めましてね」
と、みごとな話術で出席者を引き付けたのだが、取材をしたTPPウオッチャーはこう話す。
「これは進次郎氏の十八番で、過去に佐賀や熊本など農業県での選挙応援の演説では、必ず地元農産品を紹介しています。ところが、演説に拍手喝采を送る農家の不安材料であるTPPにはひと言も触れなかった。今回も五十歩百歩でした」
例えば、意見交換会を締める最後の挨拶で、進次郎氏は「8兆円の農業生産高で2兆円の農業予算」や「20年間で71兆円の予算が投じられたのに農業生産額は減少」という文言を使った。これは同席した前農林部会長の発言を引用したもの。また、農業関係者からは「中長期的対策作りが先決ではないか」などと、農業政策の構造改革や制度見直しを求める声が相次いだ。同時に、TPP対策の取りまとめを急ぐ自民党への疑問も出て、「TPPへの不安より(自民党の)拙速な短期的対策のほうが不安」との意見が出た。
すると、進次郎氏は最後の挨拶でこの厳しい発言を引用、正論と絶賛したのだ。
ところが、意見交換会終了後に囲み取材に応じた進次郎氏は、自民党の対策取りまとめの日程に質問が及ぶと、こう答えた。
「(予定どおり)17日までに最大限の対策を作る。ただ、それで支援策は終わりではない」
農家にもイイ顔をして、自民党にもイイ顔をする、どっちつかずの八方美人な対応である。これには参加した農家も落胆している。
「TPP発効は2年先。すぐに対策をまとめる必要はないのに、こんな急な日程で出される対策は選挙目当ての補助金バラマキぐらいだ」
実際、西川公也元農水相は高知の意見交換会で「土地改良予算を2年から3年で2184億円増やす」と発言。農水族議員が旧来型農業の予算復活を画策しているのは確かだ。
安倍総理を前にして物言わぬ自民党で、政権批判できる唯一の存在である進次郎氏。農家も構造改革を期待していた。そして、父親の雄姿を想起していたのだろう。が、
「小泉構造改革にとって族議員は抵抗勢力だ」
と、今の進次郎氏には農水族を一刀両断にできないようで、これが“客寄せパンダ”の限界なのか‥‥。