それなりに幸せな暮らしをしてきたつもりだが、預貯金を増やすことなどままならず、あっという間に定年を迎えた。なけなしの退職金はすぐに吐き出され、微々たる年金が頼りでは心もとないばかり‥‥。備えることができるのならば、下流老人にならないためにも最善策を学ぼうではないか。
寿命は年々延びているが、比例するかのように「老後破産」も増えている。忍び寄る「過酷な未来」に立ち向かうべく、老後の金策を専門家たちに聞いた。
まず気になるのは、多くの人にとって生活費の根幹となるであろう年金の支給時期だ。選ぶなら、
【1】年金支給は繰上げ? 繰下げ?
年金を繰上げ受給すると、1カ月早まるごとに、年金額が0.5%減額される。例えば、65歳で10万円の年金をもらえる人が60歳からもらい始めると、手取り額は7万。経済評論家の荻原博子氏が言う。
「損益分岐点は77歳です。76歳までに死ぬと、60歳からもらい始めたほうがよかったことになり、77歳以降も生きれば65歳からもらったほうがいいことになる」
繰下げ受給は1カ月遅くなるごとに、年金額が0.57%加算される。先ほどの10万円の人が70歳からもらい始めると、月額が14万2000円となるのだ。
「ただし、81歳までに死ぬと、65歳からもらい始めたほうがよかったことになり、82歳以降も生きるとすれば、70歳からもらってよかったことになります」
選択する際には自分の寿命を冷静に判断する必要がありそうだが、経済アナリストの森永卓郎氏は繰上げ受給を勧める。
「何歳まで働くかにもよりますが、40年間働いてきたサラリーマンは、おおむね20万円くらい年金がもらえる。繰上げ受給すると30%減額されるので14万。それで生活できるか、考えてみることです。例えば、旅行は預貯金で賄うとか、そういう態勢が整っている人は早くもらったほうがいい。政府では年金支給の時期を遅らせることも考えているようです。65歳でもらうつもりでいた人にとって、その時期が67歳まで延びたら非常に苦しい。そうなった時のことも考えて、繰上げ受給にできる人は、そうしたほうがいいでしょう」
問題はどんな状況で生活しているか、だと言うのは荻原氏である。
「生命保険会社が生命保険料の算出に使う『生命表』で見ると、オギャーと生まれた10万人の男の子のうち、80歳まで生きるのは6万181人。85歳まで生きているのは4万2100人です。そして90歳まで生きている男性は2万2224人となり、意外と長生きです。一方で、健康寿命というデータがあります。体に支障がなく、健康に動ける平均年齢で、世界的に注目されている。この健康寿命は男性70.42歳、女性73.62歳です(2010年)。やっと、年金をたっぷりもらえるようになったと思ったら、そのお金を楽しく使えない状況になっていては元も子もないので、そこのところもよく考えるべきだと思います」