大相撲には出羽海一門、二所ノ関一門、高砂一門、立浪・伊勢ヶ浜連合、時津風一門、貴乃花一門の6つの派閥が存在する。選挙戦では、各派閥ごとに擁立された理事候補に投票するわけだが、昨今は派閥解消の流れにあり、他派閥の候補に投票するケースも後を絶たず、先が読めない。
元北の湖部屋の関係者が言う。
「最も混沌としているのが出羽海一門です。(出羽海一門だった)北の湖部屋は一代年寄だった北の湖親方の死去で消滅し、山響親方(45)=元幕内・巌雄=が山響部屋として復活させることになりました。ところが山響親方と北の湖親方夫人が不仲でしてね。『今ある部屋は、今年夏までには出て行ってほしい』と通告されたんです」
新生山響部屋は新たな土地を見つけ、出発しなければならない。一方で、実は北の湖親方は外部から力士を招聘し、後継者にしたかったのだという。元北の湖部屋関係者が声を潜めてこう続ける。
「自分の養子にして、親方として部屋を継がせたい力士がいたようなのです。北の湖親方はその力士が登場すると身を乗り出し、食い入るようにテレビ画面を見つめていました。そしてその力士の動きに合わせて、右に左に体が動くんですよ。結局、それが誰なのか明らかにしないまま逝ってしまいましたが‥‥」
その力士とは誰か──。この関係者によれば、それは最も横綱に近い日本人大関、稀勢の里なのだという。
「どうも、北の湖親方は出羽海一門があまり好きではなかったようで、二所ノ関一門の鳴戸部屋所属だった稀勢の里に関心を注いだのもわかります。その後、お家騒動で鳴戸部屋が消滅すると、稀勢の里は師匠ともども田子ノ浦部屋へ移籍しましたが。他にかわいがった力士には、時津風一門の逆鉾、寺尾兄弟がいました。自分の育てた力士で最も寵愛したのは大露羅です。最期を看取ったのも彼でした」(前出・元北の湖部屋関係者)
病院へ搬送される直前、北の湖親方が全身痙攣を起こした時、大露羅は舌をかんではいけないと、親指を親方の口の中に入れた。その瞬間、最後の力で歯がみ。当然、爪が割れ、赤い血が噴き出した。師匠と弟子の、ちょっと泣かせる最後のエピソードである。相撲協会関係者が続ける。
「九重さんにもせめてこの手のエピソードの一つか二つあればねぇ。もう少し人に好かれると思うんですけど。そうすると、自然と理事長職は落ちてくるんですよ。あれだけ強かった横綱なんですから」