今回の選挙で双方の明暗を分けたのは、出羽一門の3人の親方の票の行方だった。相撲ジャーナリストの中澤潔氏が解説する。
「八角理事長は出羽海、春日野、境川の3親方の説得に当たりましたが、彼の主張は具体的で説得力があった。例えば、高校生以下の団体割引を行うとか、ケガ人続出の土俵対策として、国技館の敷地内にリハビリができる施設を建設するというもの。親方衆にとっては魅力的な案でした」
一方、貴乃花親方の出馬声明には北の湖前理事長の相撲道を踏襲するとあるだけで、中身が乏しかった。
「これについて春日野親方は『我々は目に見えないものを言われてもしかたない』というようなことを言っている。八角理事長は具体的な施策を公約しているのに対し、貴乃花親方は漠然とした抽象論に終始してつかみどころがない、と」(相撲協会関係者)
貴乃花親方の一連の言動に続き、具体的な施策の差。
「ついに『(貴乃花親方は)放っておくと何をしでかすかわからない。もうウンザリだ』と話す親方衆も出てきました」(前出・相撲協会関係者)
八角理事長は土俵際から一気に差し返し、逆転勝利。選挙を終えた八角理事長は、遺恨なしを強調した。
「それはそれで終わり。これからは、土俵でいい相撲を見せるんだと、一丸とならなければいけない」
3月30日、理事会と年寄総会が開かれた。誰もがNO3(総合企画部長、指導普及部長、監察委員長など)の貴乃花親方を執行部から遠ざける「報復人事」を予想したが、八角理事長は貴乃花親方を協会NO3の立場のまま、巡業部長に任命した。前出・中澤氏は、
「巡業はいい稽古をお客さんに見せて、大相撲をPRする絶好の機会。巡業部長といえば、かつての執行部ではNO3だった。八角理事長が気を遣っていることがわかります」
さる部屋関係者がこれを補足する。
「とはいえ、執行部からは外されたわけで、巡業部長は、今はNO3の立場ではない。飛ばされたというのが正直なところですが、八角理事長としては、この勝負を根に持ってまた変な動きをされてはたまらない。巡業部長は(将来の理事長候補でNO2の)尾車親方と同じ道。理事長の登竜門ですよ、と示しておくポーズが欲しかったのです」
同様に、八角理事長に反旗を翻した伊勢ケ浜親方は、審判部長から大阪場所担当部長に「降格」となった。
「山響親方は相撲教習所担当としましたが、残ったポジションがここしかなかったからです。彼はかつて大勢の力士がいる場で、『金のやり取りがない八百長は星の貸し借りで、問題はない』と発言して物議を醸している」(前出・元力士)
結果的に、貴乃花親方支持者は冷や飯を食わされる形となったのである。
貴乃花親方は部屋の公式サイトに〈これが最初で最後の勝負となります〉と記し、将来的な出馬はないとしているが、
「協会の中には『冷や飯を食わされて憤懣がたまり、2年後の理事長選で爆発するんじゃないか』と言う親方もいる。遺恨は消えたわけじゃないですから」(前出・相撲協会関係者)
暴走裏工作で大失敗した教訓は生きるのか──。