訴え続けてきたポスティングでのメジャー行きをようやく球団に認められ、晴れてドジャース入団。ついに夢がかなった日本球界屈指の右腕は、さぞかしニコニコのはず──。いや、実は海を渡る隠密交渉では、とんだトラブルの連打を浴びていたのだった。
1月8日、ロサンゼルスで行われたドジャース入団会見。広島からポスティング制度でメジャー入りした前田健太(27)は冒頭で「身体検査でイレギュラーな点がありました」と告白。日米の記者からどよめきが起こると同時に、故障疑惑個所に関しての質問が殺到した。それもそうだろう。マエケンの契約は、米国メディアが「奇妙だ」「屈辱的」「買い叩き」と評するほど異例のものだったからだ。
8年契約で総額2500万ドル(約29億5000万円)。基本年俸は広島時代の3億円とそう大きくは変わらない3億6900万円という「格安料金」で、メジャー平均年俸より低い。逆に最大8150万ドル(約96億円)ものインセンティブ(出来高払い)がついている超成果主義契約だ。約24億円のポスティング入札額と合わせると、最大で約125億円の大型契約となるが、この手の格安契約に付き物の「3~4年経過すれば契約を破棄することができ、FAとなる」という途中解約権も付帯されていない。8年間の長期にわたって、球団有利の契約形態で拘束されることになったのである。当初、5年100億円は下らないとされたマエケンの値段は、なぜこうも下落したのか。異例の契約に至った背景を、現地のメジャー関係者はこう説明する。
「前田はロス入りすると、身体検査の結果を各球団に提出しました。5人の医師の診察を受けたのですが、肩、肘の靭帯の異常発生が指摘されていた。勤続疲労により靭帯が伸びている状態で、いずれ損傷にまで至るだろう、との所見だったそうです。これで手を引く球団が続出。ドジャースさえも一時、撤退を考えたといいます。しかし前田が、『たとえどんなに条件が悪くても、メジャーに行きたい』と代理人に伝えた。そこでドジャースと再交渉しましたが、ヤリ手のGMにまんまとハメられました。ドジャース側は『数年後に手術をすることになるだろうが、3~4年働いてくれれば元を取れる』と踏んだのです」
ドジャースのアンドリュー・フリードマンGMは、かつて最弱だったレイズを強豪チームに変貌させた、史上最高の敏腕GMと評される人物。この編成トップが、球団側にリスクのないインセンティブ重視型の契約を考え、提案したのである。
一度は合意した岩隈久志との契約を、右肘への懸念を理由に破談にしたほど身体検査に厳しいドジャースが、肘と肩の異常がわかっていながらマエケンとの交渉テーブルに着いたことには、ドジャース側ののっぴきならない事情もあったという。
「オフの補強でヘタを打ち続け、困っていたんです。昨年19勝のエース、ザック・グリンキーの再契約に失敗。メジャー最高年俸の6年2億ドル(約236億円)でダイヤモンドバックス奪われ、その穴埋め補強をしなければならなかったのですが、岩隈との交渉が破談になった」(前出・メジャー関係者)
慌ててスコット・カズミアーをFA市場で獲得したものの、ローテーション投手は全員左投げで、右が1人もいなかったのだ。