2017年12月20日午後1時、両国国技館の理事会室は、嵐の前のような静寂な空気が流れていた。スポーツ紙記者が振り返る。
「席順上、八角理事長(54)の正面が貴乃花親方(45)で、時折、目を見開く貴乃花親方に対し、理事長はじっと正面を見続ける。まるで立ち合いのような形相(苦笑)。ただ八角理事長の心の内には安堵感が広がっていたはずです。なにせ最悪の事態を回避できたのですからね」
前日の12月19日に、貴ノ岩(27)の事情聴取を終え、その内容の報告を受けていた八角理事長は、午前7時30分過ぎには国技館入り。横綱審議委員会への報告書に目を通し、横審メンバーに説明をしていた。スポーツ紙デスクが話す。
「理事長の思いは年内決着の一点。今回の暴行事件から始まった一連の騒動が飛び火し、自分たちにまで降りかかってくることを危惧していた。それは公益財団法人認可の取り消しであり、理事長の座から身を引かされ、文部科学省の管轄となることです」
公益財団法人である日本相撲協会は、公益を目的とするため、税金の優遇処置などの税法上の保護を受けているが、これは長年の悲願でもあった。12年6月には厳しい条件をクリアできず、14年1月にやっと認定されたものだった。
一方、相撲協会の現執行部と対立姿勢を崩さず、鏡山管理部長の5回の訪問を門前払いした貴乃花親方も、みずから血を流す覚悟のうえの追い討ち逆襲だった。
「貴乃花は暴力事件を長期化させることで、初場所で予定される天覧相撲の阻止までいとわないと考えていたフシがありありでした。理事長もまた、初場所が開催できても、天覧相撲自粛となれば、文科省の指導が入り、最悪は管理されることになる」(角界関係者)
相撲協会は、不祥事が相次いだ08年と09年、12年から14年に天覧相撲を自粛した苦い過去がある。そうした不祥事の長期化と角界人気の急落は、なんとしても回避したいというのが本音だった。
「直近の天覧相撲は17年の初場所で、当時大関だった稀勢の里が貴乃花以来14年ぶりの日本人横綱を決めた場所だった。それだけに、八角理事長としては陛下にご報告したいし、相撲ブームが下火になることは避けたい」(前出・スポーツ紙デスク)
現状では、貴乃花親方の自爆テロとも映る「天覧相撲阻止」の追い討ち逆襲もついえたかに思えるが、今後の展開しだいでは八角理事長体制を揺るがす事態も懸念されるという。協会関係者が話す。
「20日の臨時理事会で、伊勢ケ浜親方(57)が加害者の日馬富士(33)の監督責任を問われて理事を辞任し、役員待遇委員に降格した。ただ、見方によっては1階級だけの降格で済み、被害者側の貴乃花親方の降格がなくなり、報酬返上で済む公算もありうる。八角理事長が残り任期3カ月分の全額返上となれば、金銭的にそれ以上の処分は難しい。横審からは『この間の行動は非難に値する』と強く反省を求められた以上、何かしらの付帯処分となりうるだけに、現在の立場を奪うような決定であれば、遺恨が残りそうです」
貴乃花親方は弟子の貴ノ岩への聴取にこそ応じたものの、20日の理事会終了後、協会執行部からの事情聴取には所用を理由に応じなかった。危機管理委員会の高野委員長が「弁明を聞いてから処分となる」と説明する以上、処分の決定は最短でも28日の臨時理事会となる。
態度を軟化したかと思えば、拒否の姿勢を示す貴乃花親方の真意はどこにあるのか。別の協会関係者が重い口を開く。
「すでに文科省関連の人物が動いている。八角理事長と貴乃花親方が直接対面することはなく、両者それぞれの親しい人物を通じて着地点を探している。例えば、誰の話にも耳を貸さないと思われていた貴乃花親方も、川淵三郎元チェアマンならば尊敬し信頼している数少ない人物。耳を傾けるでしょう」
19日に行われた貴乃花一門総会では、川淵氏から「先を考えているのであれば仲間を大切にしなさい」と諭されたという。前出・スポーツ紙デスクが話す。
「たぶん18年2月の理事選のことであり、そこに向けて貴乃花親方は動きだした。横審が『部屋の封鎖も視野に入れていた』という厳しい状況下だけに、『相撲協会を転覆させても改革したい』と思わせるような過激な方向性から軌道修正して、八角理事長体制の終わりをにらんでいるようです」
18年初頭から両者の対決は本格化しそうだ。