野田総理の内閣改造の目玉として、抜擢された森本敏新防衛大臣。民間人初の防衛トップとして注目が集まるが、お膝元の民主党内部からも「選挙で当選していない人物でいいのか」と批判の声も上がる始末だ。そこで、森本新大臣と因縁浅からぬ田母神俊雄元航空幕僚長が緊急提言。文民統制の是非から、揺らぐ日本の安全保障の今後まで全てを語り尽くした─。
石破氏の「文民統制発言」を笑う
「防衛大学校の卒業生で自衛官の先輩である森本敏氏(71)が防衛大臣になったことは素直に喜びたいと思います。一方で、国家観や歴史観については、私とは異なる方です。核武装反対派であり、TPP賛成派である森本さんは、言ってみれば体制順応型。その点では、野田総理としても、是が非でも防衛問題のエキスパートとして、全権を任せて、消費税問題に専念したいという意思があるのでしょう。私自身は、森本さんは自衛官的性向ではなく、官僚的性向を持つ方だと感じていますがね」
そう言うのは、本誌「田母神大学校」でもおなじみの田母神俊雄元航空幕僚長である。
今回、野田第2次改造内閣のサプライズ人事として注目を浴びているのが、防衛庁発足以来、初となる「民間人の防衛大臣」に就任した森本敏氏である。実は森本氏と田母神氏とは“浅からぬ因縁”がある。
森本氏は、防衛大学を経て1965年に航空自衛隊に入隊。防衛大学9期生の森本氏は、同15期生の田母神氏が防衛大学時代、指導教官であったという。
森本氏は、三佐時代に外務省に出向し、そのまま外務省に入省した。退職後は安全保障問題のスペシャリストとして、テレビの報道番組などでも積極的に提言をしてきただけに、見覚えのある読者も少なくないだろう。
田母神氏が冒頭、指摘する森本新大臣の「官僚的性向」とは〈自己保身の論理〉に他ならない。それこそが、防衛大臣として最も懸念される点だと主張する。
「自衛官的性向とは、現場が仕事をしやすいように上司が環境条件を整えることであり、官僚的性向とは現場のことは眼中になく自分がつじつまの合う説明ができればそれでいいということだ」
一方、与野党を問わず、民間人である森本氏の防衛大臣就任について疑問の声も上がる。
民主党の鳩山由紀夫元総理は、「ミサイルのスイッチを入れる権限を有する方が選挙の洗礼を経ない方でよいのか。相当厳しい国民の批判を受けるのではないかと心配している」
と手厳しい評価をすれば、元防衛大臣で野党・自民党の石破茂議員も、「政治家でないと責任が取れない。禁じ手だ」
と批判を展開する。
しかし、これらの発言について田母神氏は意に介さない。
「鳩山氏の発言は選挙にさえ通れば防衛大臣はバカでもいいと言っているに等しい。石破氏は補職と責任の関係をどう考えているのか理解できない。彼は防衛大臣時代、あれほど森本さんを重用していたのに、あの人(石破氏)は裏切りの常習犯だ。政治家だろうが民間人だろうが、大臣になった時点で責任は同じです。政治家の場合、大臣をクビになっても政治家でいられるが、民間人はそうはいきません。仕事を失うからです。その点では、民間人のほうが大臣の仕事に情熱を注げるでしょう」
また、森本氏が元自衛官であることから、文民統制上(シビリアンコントロール)問題があると言う議員もいる。この点についても、田母神氏は一笑に付す。
「軍人経験者が国防大臣になるのは日本以外ではごく普通のことであり、むしろ軍人経験のない人が国防大臣になるほうがまれなのです。世界のシビリアンコントロールとは『外交問題が生じた時、解決策として軍を使うか否か、これを決定するのは(軍ではなく)政治である』というだけのことです。日本以外では、文民統制という言葉はほとんど耳にしません。ごく当たり前のことだからです。ところが、日本では『文民が物事を決めて、制服がそれに従う』とされており、もっと言えば『軍人は言われたことだけをやれ』という意味として使われています。これでは自衛官の任務遂行意欲を減退させるだけなのです」