健康診断や人間ドックで定期的に検便をする人も多いと思います。昨今の便潜血検査は「目に見えないような出血」も見つけてしまいます。バスタブ一杯の水に血を1、2滴垂らしても反応するなど、「殺人現場の血液反応と同じ精度」と言われるほどです。大きい方を力んで出し、肛門が切れて微量の血が混じった場合も陽性反応が出ますので、検便をする場合は、時間をかけてスムーズに出るよう務めてください。また便座の保温機能で臀部を温めてもいいかもしれません。
ではここで質問です。血便と血尿、重大病を危惧すべきはどちらでしょう?
まず血尿について説明しましょう。尿は、腎臓から尿管を通り、膀胱にたまります。最終的に尿道を通過して体外に排出されますが、血尿はこのいずれかで出血をしています。原因の多くは膀胱炎や尿道炎、もしくは尿路結石で、男性は結石、女性は膀胱炎である場合がほとんどです。特に女性は抵抗力が落ちると膀胱炎になりやすく、大変な病気ではありますが命に関わることはありません。
中には腎臓がんや膀胱がん、前立腺がんの症状として出現するケースがありますが、この場合は痛みがなく数日から1~2週間で止まることが多く見られます。いずれにせよ、どこからの出血かを見分ける必要があるため、まず泌尿器科を受診してください。
かたや血便は、その要因は痔と大腸がんに大別されます。
茶色の便が鮮血の飛び散った水の上に浮かんでいる場合、ほぼ痔と判断できます。大便に血がついているのではなく、出口(=肛門)の近くが切れているわけです。
血の混じった真っ赤な便が透明な水に浮かんでいる場合、大腸がんの可能性が高くなります。大便の色が赤いとかなり奥のほうで出血していると考えられます。また便の一部に血が混じっている場合は直腸の出口付近が出血個所です。
直腸がんの場合、下痢をするようになり、排便をしてもすっきりしない、という症状に見舞われます。出血も黒に近い色となるのが特徴です。
鮮血を見た瞬間は驚くでしょうが、痔の場合は肛門科か外科、大腸がんの疑いがあれば消化器内科で内視鏡検査を受けてください。
まずは便の色を見分けるのが肝心ですが、大腸がんは転移しやすく、転移すると治療方法がありません。日本人の死亡要因のトップはがんで、全死亡者数の約4分の1を占めています。中でも大腸がんは肺がんや胃がんと並んでトップ3に入っており、女性では乳がんを抜いてトップになりつつあります。高齢化社会でますます増えていくと言われており、生命に関わる確率を考えると血尿より血便のほうが断然怖いのです。
血尿はおしっこですぐに気がつきますが、血便はしゃがんだまま気づかずに流してしまうという難点があります。がんの初期は自覚症状として痛みもないため、年齢を重ねたら「便を見る」という習慣をつけてください。
ともあれ、尿と便は体の状態を教えてくれます。
尿の場合、透明や薄黄色なら問題ありませんが、真っ赤だと尿路結石や膀胱炎、尿道炎、オレンジ色や紅茶色だと黄疸や胆囊など肝臓の病気です。
便は黄色や茶色なら問題ありませんが、赤いと大腸がんや痔、黒いと胃潰瘍や胃がん、十二指腸潰瘍が疑われます。ただし、食べ物で色が変わるのも便の特徴で、青汁を大量に飲むと緑に、濃い赤ワインを飲むと紫になります。
「小便は小さな便り、大便は大きな便り」。汚いからと目を背けず、どんなものが出たか、しっかり見ておくことです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。