4月を迎え新年度となりました。街を歩く新入社員の姿を見かけますと、身が引き締まる思いがします。皆さんの中には、転勤や心機一転で引っ越しをされた方も多いのではないでしょうか? 今回は住まいの中でも健康チェックに欠かせない「トイレ」について、お話ししたいと思います。
総務省のデータによれば、平成20年の時点で、日本の住宅に占める洋式トイレの保有率は9割だそうです。今や和式は昔からの住宅や古い公衆トイレでしか目にしなくなり「過去の遺物」となりつつあります。
しかし、和式にはいくつかのメリットがあるのも事実です。ではここで質問です。健康寿命を延ばすのに役立つのは、和式トイレと洋式トイレのどちらでしょう?
まず、和式トイレの最大のメリットは、用を足した際に、自分の尿や便を確認できることです。「大便は大きな便り、小便は小さな便り。どちらも体からのシグナル」と言われています。体内から排出される尿や便は、健康状態を確認するバロメーターでもあります。常日頃から大小便の形状や色、ニオイを確かめることは、自身の体の異変を知るうえで非常に大切です。当然ながら、和式のほうが便のチェックには適しています。洋式では便が水の中に入ってしまうため、便の状態がわかりにくくなります。
もう一つ、あまり指摘されないことですが、かがむスタイルを毎朝するため足腰が鍛えられ、年齢を重ねても足腰が衰えません。ほんの20年前までは和式が主流だったため、今の高齢者は足腰が丈夫です。類人猿がいずれも和式スタイルでしゃがんで用を足すとおり、人間も本来は和式で排便をすべきかもしれません。今後、洋式に慣れた子供たちが高齢者になった時、恐らく現代の老人よりも足腰は弱くなるでしょう。寝たきりになる人も今より増えると思います。
さらに付け加えれば、肥満は和式の大敵です。先日、タレントの内山信二さんがテレビ番組の収録で、和式トイレにしゃがもうとしたところ、座れませんでした。しゃがんだ時の重心がつかめなくなるのです。こうしたケースを考えると、自分が肥満かどうか知ることもできます。
一方、洋式のメリットは足腰の弱い高齢者にとって非常に便利です。ましてや冬に暖かい便座はありがたいものです。それにもまして洋式トイレには、ウォシュレットが欠かせません。肛門の周辺を衛生的に保つメリットは計り知れません。切れ痔や痔ろう、外痔核(いぼ痔)にとって、効果はてきめんで、痔対策のために和式を洋式に変えた人は少なくないでしょう。
本来なら、和式用のウォシュレットが開発されてもしかるべきですが、和式の場合、座る位置によって、どこに肛門がくるかわからず、開発できないという事情があるようです。
長い目で見た場合、健康な若い夫婦なら和式を選ぶメリットもあるでしょうが、ウォシュレットの効果を考えると、洋式は捨てがたいところです。
以上を踏まえると「若い時は和式、年を取れば洋式」が今回の解答です。
和式・洋式も含め、最近は自動で流すトイレも出てきましたが、自動洗浄の場合、血便やタール便が出てもわからないというデメリットがありますから、便利すぎるトイレも健康の観点からは考えモノでしょう。
同じく、最近流行しているカラーの便器も便の色が見えにくくなります。便器は白に限ります。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。