年金は先細り、賃金は上がらず、不景気のトンネルは長く暗いまま。生活は困窮の一途をたどり、その日をしのぐことに汲々とする。そして、つい出てしまった「手」──。実感のないアベノミクスが次々と世に送り出すのは、万引きを繰り返す高齢者たち。彼らの悲痛な姿をつぶさに見てきた現役Gメンの告白を聞け!
東京・下町にあるスーパーマーケット。通称「万引きGメン」と呼ばれる保安員がウナギのかば焼きと缶ビールを盗んだ老人男性を捕らえた。事務室で話を聞くと、老人は近所の簡易宿泊所で暮らす71歳。末期ガンを患っているという。所持金は300円。
「死ぬ前に好きなものを目いっぱい食べてやろうと思って‥‥」
酒と点滴臭とが混ざり合った息で、そう吐き捨てる老人の体は枯れ木のように細かった──。
高齢者による万引きが、あとを絶たない。平成27年度版犯罪白書によれば、一般刑法犯として検挙された65歳以上の罪状は7割以上が窃盗。うち万引きはその6割を占め、特に65歳以上の女性に限れば、検挙総数の8割が万引きと、その数は際立っている。
「06年に法律が改正され、それまでの10年以下の懲役刑の他に50万円以下の罰金刑が新たに加わりました。当然、常習者の中には何度も捕まって、そのつど、罰金を払っている人もいる。でも、またやるんですね。罰金を払って金がなくなったから万引きしたんだ、と言うモサもいます」
そう語るのは、先頃「万引き老人」(双葉社)を上梓した現役「万引きGメン」の伊東ゆう氏。16年間で4000人以上を捕捉してきたベテラン保安員だ。万引き老人はスーパーやドラッグストア、ホームセンターなどに出没。ターゲットの8割は食品だという。
「多くは比較的高価で隠しやすい、小さなものを狙う。高齢者は特に和牛肉や高級刺身のパックなど、買うのがもったいない、ちょっとした贅沢品が多いんです」
手口は持参したトートバッグを広げて中に盗んだ商品を入れていく、といったスタンダードなものから、レジを通らず外に出る通称「カゴ抜け」までさまざまだが、ここ数年、目立って増えているのが「シール貼り替え」による詐欺行為だという。
「スーパーなどでは閉店時間や賞味期限が近づくと総菜や弁当、生鮮食品に『値引きシール』を貼りますが、これを事前に剥がしてストックしておくんです。で、狙いをつけた商品に貼り替える。バーコードごと貼り替えるヤカラもいますね」
さらに、食品の袋を開けて中のものを食べてしまう「消費窃盗」や、商品を選ばず一瞬でつかみ取りする「バードハント」、同じ商品を2個ずつ盗む「ニコドリ」など、多岐にわたる。
万引きGメンの仕事は、まず、店内を巡回して目をつけた人物の行動を確認、店の外へ出たあとに声をかけ、呼び止める。
「最初から万引き目的で入店してくる人間は、みんな怖い顔をしています。ジャンキーと同じで、一瞬でわかる。我々は気づかれないよう、それを追っていく」