着目のポイントは「目つき」「顔つき」「かごの中」で、さらに男性であればポケットの多いジャンパーやベスト、ニッカボッカ姿。女性の場合は帽子やマスクをつけ、肩から大きく口の開いたトートバッグをかけていれば要注意だとか。
「我々は常習者を『マンヅラー』(万引き面の略)と呼びますが、ベテラン保安員の中には、顔つきだけで犯行を察知する人もいます」
さて、Gメンによって捕捉された万引き犯は事務室に連れていかれ、名前や住所など人定事項を聞かれることになるが、
「高齢者に多いのが、すぐに泣いて土下座するパターン。これは慣れている証拠です。『あれっ、買ったつもりだったのに。今、お金払ってきますから』としらばっくれたり、『ボケてきちゃったから、わからないんだよ』と最後まで認知症だと言い張る老人もいます。ただ、大半は常習者で、捕まらなければラッキー。捕まっても、その場だけ反省したフリをする。か弱い老人が泣いて謝れば大した騒ぎにならないはず、と思っている人があまりに多い」
逆に、反省など皆無の「居直り型」もいるという。
「声をかけた瞬間から『私が何を盗ったというんですか!』と挑発してくる。証拠を突きつけても『他の店で買った』『自分の家から持ってきた』とうそぶく。『死んでやる!』も万引き老人の決まり文句です。私の経験から言って、このセリフを口にして本気で死ぬ気がある者は一人もいません」
まさに人間模様のるつぼとでも言うべき、虚々実々の駆け引きが展開されるが、Gメンはこんな驚くべき状況にも、たびたび立ち会っている。
事情を聞くGメンに体を預け、「私を好きにしていいから」と詰め寄る、売春と覚醒剤所持の前科を持つ70代女性。妻の墓参りの前に生花、亀の子たわし、ビール、大福、線香を万引きした69歳の男は、事務室で自殺を図ろうとした。ジャケットの内ポケットには遺書があったという。
そして社会的地位が高かった高齢万引き犯ほど、虚栄心が強い。
「小学校の教頭や元区議会議員、大手企業の重役など社会的地位の高い老人も多く捕まえてきましたが、皆、『悪気はなかった』『無意識だった』とシラを切る。でも、一部始終を見ている私からすれば、悪意があることは明白。退職後も虚栄心というプライドを捨てきれないのかと思うと、哀れに見えますね」
万引き老人たちを犯行に駆り立たせる動機もさまざまだが、その多くが「貧困」という現実を抱えている。都内スーパーでコロッケを素手でつかみ、口の中へ放り込んだ老人を捕捉した時のことだ。
身分確認のため、ボールペンと紙を渡して名前を書いてもらおうとしたが、ギザギザに波打った文字はまったく読めない。名前を尋ねても前歯がなくてうまく聞き取れず、どうやら「金に困っている時に高利貸しに戸籍を売ったため、生活保護も受けられない」ということだった。
「本当に10円、20円しか持っていない老人は珍しくありません。それでいて生活保護も受けていない。これが日本の現実なんです」
かつては年末の風物詩だった、刑務所に入りたくて万引きする“志願兵”も、季節を問わなくなった。
伊東氏が都内の繁華街にある大型スーパーで弁当と総菜パックを盗んだ77歳の“志願兵”の男を捕まえたのは数年前だった。