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あのスターを生んだ夏の甲子園(7)「記憶に残る怪物」江川卓が残した圧倒的な記録

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“元祖・怪物”と言われた江川卓(元・巨人)が作新学院(栃木)のエースとして甲子園に初見参したのは73年春の選抜だった。この大会、江川は自慢の剛速球を武器に脅威の奪三振ショーを演じ、チームをベスト4に導く。じつに4試合で60奪三振。春の選抜の大会新記録を達成した。ただし、それでも優勝は出来なかった。準決勝で試合巧者の広島商に屈したのだ。被安打2ながら、その2本がことごとく得点に結びつき、1-2で惜敗。それでも全国のファンの誰もが“夏こそは”と大いに期待をもたせる結果だった。

 そして、夏。怪物・江川は甲子園に再びその姿を現した。だが、全国の有力校から徹底マークをされたこともあり、初戦の柳川商(現・柳川)戦から思わぬ苦戦を強いられる。この試合、江川は45人の打者から23奪三振(!)の力投をみせたが、柳川商が江川用の奇策として繰り出してきた“バスター打法”にてこずり被安打7の1失点。延長15回にもつれこんだ末の2-1での辛勝となった。

 続く2回戦は銚子商(千葉)との雨中の熱戦。最悪のグランドコンディションが影響したのか、この日の江川は得意のストレートが影を潜めた。それでも相手打線を抑えるところに江川が怪物たる証だったが、味方打線も銚子商の2年生エースの土屋正勝(元・中日など)を攻略出来ず、またも試合は延長戦へ。

 迎えた延長12回裏、甲子園の神様は残酷な幕切れを用意する。雨でボールがすべり制球がままならなくなった江川は2四球に1安打で1死満塁のピンチを招いてしまった。そして次打者へフルカウントから、あまりにも有名な痛恨の押し出し四球。0-1のサヨナラ負けで、江川は選抜に続き不完全燃焼のまま甲子園を去って行ったのだった。

 江川卓の甲子園通算成績は6試合に登板し、わずか4勝(2敗)。にもかかわらず“怪物”と呼ばれたのはその圧倒的な投球内容にあった。投球回数59回1/3で被安打26、奪三振92(1試合平均15.3)、自責点3、防御率0.46。その後出てきた、どの“怪物”をも凌駕する成績。のちに法政大学で通算完封数の記録を作ろうとも、巨人で連続最多勝で20勝しようとも、「全盛期は高校時代だった」と、いまだにファンが語り継ぐ所以だ。

(高校野球評論家・上杉純也)

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