昨年、日本プロ野球史上9人目のトリプルスリーを達成し、今季は史上8人目の三冠王も射程圏内にある山田哲人(現・ヤクルト)。今や日本を代表する強打者へと成長したが、履正社(大阪)の2年生だった09年秋の段階では、山田はプロ野球のスカウトもほぼノーマークに近い存在だった。
当時、関西球界で名が轟いていた野手は同じ大阪の強豪・PL学園の吉川大幾(現・巨人)、勧野甲輝(元楽天)、智弁和歌山の西川遥輝(現・日本ハム)など。だが、山田はひと冬越えて急激に成長。結果、みごとにドラフト1位を勝ち取るまでになったのである。
その打棒が全国の野球ファンに知れ渡ったのは2010年、3年生の最後の夏。3番ショートに定着した山田は大阪府予選8試合で13打点をマーク。母校に13年ぶりの夏の甲子園出場をもたらす原動力となったのだ。
そして、甲子園の初戦となった天理(奈良)戦で、山田はのちのトリプルスリー誕生を予感させる活躍をやってのける。
2-0とリードした5回裏、2死一、三塁だった。三塁ランナーだった山田は一塁ランナーが天理の左腕・沼田優大の牽制球で挟まれているスキをついてホームスチールを決めたのだ。打っても3打数2安打1四球。放った2本のヒットはいずれも火を噴くようなライナー性の当たり。試合も4-1で快勝し、履正社の夏の選手権初勝利の立役者の一人となったのである。
続く聖光学院(福島)戦でも山田のバットから快音が響き渡る。3打数2安打1四球2打点。中でも0-2と劣勢だった6回表には「狙って打った」という、相手投手の歳内宏明(現・阪神)のストレートを豪快に振り抜くと、打球は大きな放物線を描いて左翼席へ。一度は試合を振り出しに戻す同点2ランを放ったのだ。試合は8回裏に3点を奪われ、2-5で惜敗したものの、この甲子園での活躍がドラフト1位指名を引き寄せたといってもいいだろう。
今夏、山田の母校・履正社はこの2010年以来の夏の甲子園出場を果たした。しかも、高校生NO1左腕との呼び声高い寺島成輝を擁しての堂々の優勝候補。トリプルスリー山田さえなし得なかった全国制覇がなるか。注目が集まっている。
(高校野球評論家・上杉純也)