売り上げ、内容ともに世界一──。「マンガ」は今や、日本の代表的文化として世界に広く認知されている。日本の漫画はなぜこんなにも面白いのか。なぜ続々と突出した漫画家が生まれ続けるのか。世界のベストセラーを作った源流に迫る!
日本の漫画が世界市場を席巻している。アニメやゲームなどとの線引きが難しいが、漫画単行本中心の市場を考えると、全世界で数兆円規模、日本だけで4000億~5000億円ほどに上る。
世界で最も売れた漫画は何か。1941年刊行開始のシリーズ「クラシックス・イラストレイテッド」(A・L・カンター編)の全169巻で、累計なんと10億冊。二番手がマーベル社の「Xメン」で5億冊、3番目にはスヌーピーでおなじみ「ピーナッツ」の4億冊で、ベスト3はアメリカの漫画が独占する。
日本では「ONE PIECE」の3億8000万冊が最高で、世界第6位。7位にフランスの「ルキ・ルク」が入り、8位に2億8000万冊の「ゴルゴ13」がランクインする。その先は日本の漫画が目白押しで、「ドラゴンボール」「NARUTO」「ブラック・ジャック」「ドラえもん」と続く。日本漫画は世界ベスト50のうちの30冊を占めているのだ。
日本の漫画が本格的に海外進出を始めたのは72~73年のこと。そこで74年以降に登場した作品に絞って、世界の漫画市場を眺めてみよう。「ゴルゴ13」や「ドラえもん」が省かれ、ベスト50に入っている「サザエさん」「鉄腕アトム」も除外される。アメリカの「Xメン」「ピーナッツ」も外れるが、その結果は‥‥。
1位が「ONE PIECE」、2位「ドラゴンボール」、3位「NARUTO」と、ベスト3を日本漫画が独占している。同率3位にアメリカの「ウォッチメン」が入るが、5位は「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、6位「名探偵コナン」と、再び日本漫画が登場する。ベスト50に日本漫画がなんと46タイトルも入り、日本漫画占有率は92%。圧倒的な強さである。
これをさらに20年繰り上げ、94年以降に世に出た作品に限定すると、「ドラゴンボール」「こち亀」が外れるが、それでもベスト20を日本作品が席巻してしまう(ベスト50まで独占すると思われるが、外国作品の部数が確定できない)。
この20~30年、世界の漫画市場は日本勢に押され、どこの国でも日本漫画が市場を圧倒してきた。どうしてだろうか。早い話、それは日本の漫画が面白いからだ。
漫画は「絵」「ストーリー」「キャラクター」「構成力」の4つの要素で決まるとされる。キャラクターが確立し、物語が魅力的で、絵が巧ければヒット作が生まれると考えがちだが、実は構成力がより重要なのだ。
日本の漫画が世界の漫画と異なっている点があるとすれば、その「構成力」と「擬声語の多さ」が挙げられる。私が大学の授業でこう解説すると、「構成力って何ですか」「擬声語の数なんて世界中同じでしょう」と、生徒からの質問やら反論でにぎやかになる。
構成力とは「間(ま)」や「引き」という言葉で表される技法で、これは古典絵本や紙芝居にも見られる日本的な見せ方。落語にも通じるところがある。
志波秀宇(しば・ひでたか)<漫画 研究家>:昭和20年東京生まれ。早大政経学部卒。元小学館コミックス編集室室長。元名古屋造形大学客員教授。小学館入社後、コミック誌、学年誌などで水木しげる、手塚治虫、横山光輝、川崎のぼるなどを担当。先頃、日本漫画解説の著書「まんが★漫画★MANGA」(三一書房)を出版した。