ここまでいろいろ論じてきたが、事前指定書を書いたうえで、健康オタクとしてPPK運動にいそしみ、肉をよく食べ、冬場に風呂で倒れてもすぐに救急車を呼ばなければ願いはかなうのか。ピンコロ往生を実現するためには結局、何が必要なのか。米山氏はたったひと言、こう答えた。
「運」
むー、そうか。万全を期し、あとは運。だとすれば「神頼み」ならぬ「仏頼み」も繰り出すしかない。
参拝すればピンコロがかなう「ぽっくり寺」なるものが全国に数十は存在する。その代表的存在といえばやはり、奈良県斑鳩町(いかるがちょう)の吉田寺(きちでんじ)だろう。1972年、認知症をテーマにした小説「恍惚の人」が大ヒットしたのをきっかけに、世の中あげての「ぽっくり死にたい」ブームが到来。たまたまテレビで「ぽっくり往生の寺」として紹介された吉田寺に参拝客が殺到するようになり、「ぽっくり寺なら吉田寺」のイメージが定着した。木魚の穴に「ピンコロで死ねますように」と願い事を書いた紙を入れるならわしでも知られている。
福島県の「会津ころり三観音」も人気だ。弘安寺、如法寺、恵隆寺の各寺に祭られる三観音像を拝むとともに、観音堂の中にある「抱きつき柱」にすがればぽっくり往生の大願が成就する、と言われている。ぜひ柱をハグしに行ってほしい。
東京では八王子市の龍泉寺がよく知られている。本堂には「ぽっくり観音」が安置され、春夏のお彼岸の季節にだけ、観音様がご開帳される。まさしく「秘仏」である。そしてその時期は、ピンコロを願うお年寄りで大にぎわい。住職の武田道生師によれば、
「お参りにいらっしゃる方も変わりました。30~40年前は、お子さんに連れられてようやくたどりついた、という感じの方(高齢者)が多かったのに、今は70代くらいでもお若い。ウオーキング感覚のようなお元気な方が多いです」
龍泉寺では江戸時代から「ぽっくり信仰」が続いているのだが、近年は高齢化とピンコロ願望の広がりもあって、「ウチも『ボケなし観音』を置くことにした」という寺が続出しているらしい。何だか「ピンコロブーム」到来の兆しなのだ。
そしてもう1カ所。東京の王子駅から歩いて20分余り、バス停「豊島六丁目」のすぐ前にひっそりと建つ祠に置かれた「ぽっくり地蔵」もぜひ参拝してほしい。地元住民によれば、
「時たま、お年寄りがじっとお祈りしている姿を見ますね」
街の風景の中にさりげなく存在するたたずまいが、何ともピンコロの夢をかなえてくれそうな気がするのだが。ピンコロ往生への道は険しい。しかし挑戦あるのみ!
◆山中伊知郎(健康ジャーナリスト) 1954年生まれ。著書に「ぽっくり往生するには」(長崎出版)など。友人たちと「ぴんころ倶楽部」なる団体を設立し、ピンコロ往生を実現した人たちのエピソードを集めたブログ「ピンコロ往生伝」を運営。10月4日(火)に新宿・ゴールデン街「ビッグリバー」にて午後7時から「ピンコロ往生を語る会」開催。どうすればピンコロ往生できるかを、徹底的に語り合う。参加者募集中。