続けて「誕生日ピンコロ」のケースを。
99歳で亡くなった元書道家の男性・Tさん。新聞を毎日隅から隅まで読み、話題には事欠かないくらい頭もしっかりしていた。健診でも大きな病気は見つからない。「白寿」を迎えるとあって、子供や孫たちが誕生日にお祝いの会を計画。ところが、その3日前に倒れ、寝込んでしまう。やむなくTさんのベッドを前に10人以上の子や孫が集合して、おのおのが挨拶。全てが終わって30分ほどすると、安心しきったTさんは息絶えた。
高齢になると、よく誕生日の当日や翌日に亡くなるらしい。久しぶりに家族みんながそろって興奮し、血管が破れたりするためだ。本人としては祝福されたあとに旅立てるのだから、決して不幸な話ではない。
「ピンコロで逝きたければ、まず90歳まで元気で長生きするのが最も確率が高い。体全体がバランスよく衰えているので、自然に苦しまずに逝きやすいですね」(米山氏)
そのためには生活習慣病にならないように、酒もほどほど、タバコも吸わず、適度な運動がいいそうだが、実はそんな健康的な生活をしている人が、90歳どころか、70代でみごとなピンコロ死を遂げる例も少なくない。
歯科医をしていた70代の男性・Hさん。職業柄、体のケアは大事にし、スポーツジムで汗を流すのが日課。ジムから帰ると、ビールを飲んでマッサージ器にかかるのも毎日のことだ。ところがある日、朝までマッサージ器に座ったままのHさんを、妻が発見した。
これはジョギング中に死亡する例があるのと同じ、ショック死のようなものだ。
70代で亡くなった元薬剤師の男性・Oさんも典型的な健康オタクで、山登りが趣味。健康食品を試すのも大好きだ。肉は体に悪いからと菜食主義を通し、「野菜は根っこや葉っぱまで食べなきゃ」が口癖だった。健診も異常なし。それが突然、脳梗塞で倒れ、わずか3日後に亡くなった時には、思わず周囲も「あの健康好きの人がね」と驚いた。
健康にこだわりすぎれば、あるいはピンコロへの道も開けるのかもしれない。
デイサービスの現場で働くスタッフは言う。
「ここまで来たらオレの人生は終わり、と達観しているようなお年寄りはアッサリと死にますね。介護を受けるのが大嫌いだった80代のおじいちゃんがそうでした。『みんなに迷惑をかけたくない』が口癖のおじいちゃんもそう。そういうことを、気を引こうと、これ見よがしに家族の前で言うこともなく、『故人は生前、こんなことを話していました』と伝えて家族が驚くというパターン。家族のことを思いやるような人は、スコンと死ぬ率が高いです」
◆山中伊知郎(健康ジャーナリスト) 1954年生まれ。著書に「ぽっくり往生するには」(長崎出版)など。友人たちと「ぴんころ倶楽部」なる団体を設立し、ピンコロ往生を実現した人たちのエピソードを集めたブログ「ピンコロ往生伝」を運営。10月4日(火)に新宿・ゴールデン街「ビッグリバー」にて午後7時から「ピンコロ往生を語る会」開催。どうすればピンコロ往生できるかを、徹底的に語り合う。参加者募集中。