10月19日に松井一郎大阪府知事(53)が現職警官の「差別発言」を称賛するかのようなコメントを発し、各界から猛批判を浴びた。だが、地元・大阪はいたって寛容だ。府民が黙認する理由を探ってみた。
事の起こりは10月18日。沖縄県国頭郡東村高江で、米軍ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の建設現場に警備のために派遣されていた、大阪府警所属の20代機動隊員が発した言葉だ。
「触るなこら、どこつかんどんじゃこらボケ、土人が」
反対派の住民に対してこう暴言を吐くシーンが撮影され、その動画は瞬く間にインターネット上に拡散。翌日の夜、その映像を巡り、松井知事が自身のツイッターでこうつぶやいたのだ。
〈ネットでの映像を見ましたが、表現が不適切だとしても、大阪府警の警官が一生懸命命令に従い職務を遂行していたのがわかりました。出張ご苦労様。〉
これが、差別用語であるはずの「土人」発言を擁護したとして議論を巻き起こすことになった。
ベストセラー「日本会議の研究」(扶桑社刊)の著者である菅野完氏は、「松井発言」を厳しく批判する。
「政治家・統治者としての能力のなさが浮き彫りになったと思います。この問題は政府にすれば、ヘリパッドを建設できるかどうかを沖縄住民と交渉する商談のようなものなのに、その認識がない。知事と府警には直接の命令系統はありませんが『土人』という“ラストワード”が出て、それを擁護するような発言をしたら、泥沼化することくらいわからないんでしょうか」
松井知事は10月24日付の産経新聞でインタビューに答え、「発言自体は認めていない」と火消しを図ったが、時すでに遅し。
〈失言甚だしいと思います〉(教育評論家・尾木直樹氏のブログより)
〈不適切ではなく、打撃的表現として「違法」のレベル〉(紀藤正樹弁護士のツイッターより)
と各方面から批判の嵐にさらされた。だが、当の大阪府民の反応は意外なほど冷静で、辞任を要求する声は聞こえてこない。在阪の放送作家が事情を説明する。
「大阪には言いたい放題を売りにした過激な人気トーク番組が多いから、みんな感覚がマヒしてるんと違いますか」
バッシングどころか、番組で松井知事を擁護するような風潮もあるという。
「キャスターの辛坊治郎さん(60)は“擁護派”の中心。『朝生ワイド す・またん!』(読売テレビ)で『ヘリパッドを作ってほしいという人のほうが圧倒的に多い』と発言。松井知事の失言から話題をすり替えようとしているように見えました」(前出・放送作家)
いわゆる“関西ローカル”と呼ばれる番組では、歯に衣着せぬ発言が好まれる傾向がある。かつて「たかじんのそこまで言って委員会」(読売テレビ)に出演していた放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏が、その特異性を解説する。
「東京で言えば『TOKYO MX』みたいなもので、言いたいことを言いやすいのは確か。それは、亡くなったやしきたかじんさんの影響が大きいと思います。上岡龍太郎さんや山城新伍さん(故人)も同じタイプでしたけどね。特に『そこまで言って委員会』みたいに、ズバズバものを言う流れを作ったのはたかじんさん。出演していた僕が言うのもなんですが、番組の影響力はすごいですよ。日曜のお昼過ぎの時間帯に、21%も視聴率を取って、次の収録で記念品としてiPodをもらったこともあるんです(笑)」
時に他人を傷つける毒舌がもてはやされる大阪のテレビ業界。こうした土地柄では「松井発言」が埋もれるのもしかたないかもしれないが‥‥。
「大阪を中心に活動していた喜劇役者の藤山寛美は、東京で公演する際は『あほ』という言葉を使わなかった。それは寛美が、埼玉から大阪に働きに出てきた人が、『あほ』と言われて自殺した、という記事をたまたま読んだからだと言われています。自分の発言の影響力をしっかり考えて話すのが、本来の大阪人気質なんです」(前出・菅野氏)
くだんの「土人発言擁護」の責任を取り、知事の“進退”が問われる日は訪れるのか。