「24時間」を通じて、日本テレビを引っ張るディレクターたちに強い仲間意識が植え付けられる。助け合いながらチャレンジする──制作サイドも、まるで「24時間」の精神を体現するがごときなのだ(笑)。
翌年に、前年総合演出だった人間が「演出担当」の一人として、新しい総合演出の下で携わることもよくある。私も04年の翌年は1回お休みさせてもらったが、06年には「世界一受けたい授業」を担当する後輩の総合演出を、「演出」としてサポートさせてもらった。
この「24時間テレビ」を通じて展開されるディレクター陣の濃密な共同作業によって、まずは日本テレビの視聴率を取るノウハウが共有される。それと同時に強い「一体感」が生まれるのだ。これはディレクターだけではない。「24時間」制作を通じて、タレント事務所と向き合うプロデューサーたちも同様に、総合プロデューサーの下で同じように経験を積んでいくのだ。
私は独立して以来、各局で仕事をしているが、この「一体感」は日本テレビが圧倒的であると感じている。他局では「抜け駆け」して「出し抜いて」「一発当てて」スタープロデューサーになりたいという風潮を感じることがある。日テレの人間にも当然そういう部分はあるし、テレビマンたる者あって当然なのだが、何かの折には「一致団結」するところが「日テレ」の特長だ。
V9時代の巨人、あるいは広岡・森監督時代の西武のようにスターであってもチームバッティング、時には送りバントも辞さない──そんな天衣無縫とも呼ぶべきチーム力こそが、日テレの強さの源泉と言えよう。
ただ、V9末期や、森監督時代の西武は「強いけどつまらない野球」とも言われた。現在、他局につけいる隙を与えない日テレであるが、「間違いなく視聴率を取れるやり方」で番組を作る一方で、冒険心に富んだ企画は実現しづらい一面もある。視聴率を確実に取りにいくがゆえに、無難だけど似たような感じの番組が増えているのが気がかりだ。
若いディレクターたちが「自分も早く番組を当てなければ埋没する」と焦燥感を募らせているのも事実である。
日テレは03年「視聴率買収事件」を起こした。また12年には「芸能★BANG+」が、オセロの中島知子(45)を「洗脳した占い師が出演する」と予告しながら出演せず、打ち切りとなった苦い過去がある。「当てなきゃマズイ焦燥感」は、会社を揺るがす不祥事を引き起こす下地となる。「ブレない」「楽しんで作る」など、日テレの「イズム」を常に頭の片隅に置いてほしいと、OBの一人として願うばかりだ。
勝ち続けることは難しいのだが、今の日テレなら少なくとも向こう2~3年は安泰だろう。思わぬ不祥事に足をすくわれるようなことがなければ。
村上和彦:(株)プラチナクリエイツ代表。65年生まれ、神奈川県小田原市出身。元日本テレビ放送網制作局専門部長兼演出家・テレビプロデューサー。「ヒルナンデス!」を立ち上げ、「『笑っていいとも!』を終了させた男」として知られる。「スッキリ!!」の視聴率アップや、「24時間テレビ」ほかを総合演出。14年に日本テレビを退職し、フリーランスに転向。現在もテレビ東京「モーニングチャージ」監修ほか番組制作を行っている。