「イッテQ」の総合演出は、かつて「電波少年」のスタッフを経験しており、「電波少年」のとがった過激さから「とがった部分」を上手に消した。とはいえ、スピリットは十分にとがらせつつ、「ファミリー向け」な安心テイストと「チャレンジ感」を加えることで、大ヒット番組に育て上げたのである。
イモトアヤコは現在、エベレスト登頂に向けて着実に歩みを進めているが、登頂後の「イッテQ」は何をやろうとしているのだろうか──TVマンの一人として私も楽しみである。
そして21時から始まるのが「行列のできる法律相談所」だ。
長く日テレの旗艦番組として君臨しているこの「行列」であるが、「法律相談なんて全然やってないじゃないか」という声を、いまだに放送業界内外の人から聞くことがある。
しかし、作る側からすれば「そんなことどうだっていい」という姿勢なのだ。表立ってそう主張することはないが、「行列」という番組が見せてくれる中身がおもしろければ、掲げたタイトルと内容が乖離していたとしても視聴者は観てくれるのである。
その時々の旬なテーマで展開するトーク。そのテーマ設定と切り口が「絶妙」ゆえに、他の追随を許さない。それが「行列」の魅力である。
実は「行列」に見られるように、「当初からの中身を、視聴者のニーズを読み取りながらどんどん変えていく」というのが、日テレ伝統の強みである。
前述した「鉄腕DASH」の企画変遷を見ても、それは明らかだろう。03年から10年にかけて放送された「エンタの神様」も当初は、音楽やダンスなどさまざまなエンターテインメントを紹介する番組としてスタートした。しかしほどなく「芸人のネタ紹介番組」へと転化して、ヒット番組となったのだ。
私が独立して以降、日テレ以外の局で仕事をすると、仕事先の業界人から「日テレは番組の中身をどんどん変えていきますよね。どうしてそんなことができるのですか?」と、よく聞かれる。実際はどこの局でも内容を変えていくことはあるのだが、変えたあとは視聴率も下がり番組は終了してしまうことが多いという。「笑点」のように変わらないことで強さを維持する一方で、中身を変えながらパワーアップしていく番組もある。日テレのこの融通無碍な力の源泉はどこにあるのか──次回は、そのあたりの秘密に迫りたい。
村上和彦:(株)プラチナクリエイツ代表。65年生まれ、神奈川県小田原市出身。元日本テレビ放送網制作局専門部長兼演出家・テレビプロデューサー。「ヒルナンデス!」を立ち上げ、「『笑っていいとも!』を終了させた男」として知られる。「スッキリ!!」の視聴率アップや、「24時間テレビ」ほかを総合演出。14年に日本テレビを退職し、フリーランスに転向。現在もテレビ東京「モーニングチャージ」監修ほか番組制作を行っている。