不特定多数が視聴できるテレビに比べれば、客層を選ぶ映画は本来、クレームとは最も遠い位置にある。それでも、やはり事故は起こってしまうもの…。
映画界において、鬼門とされるのが故・三島由紀夫氏の名前だ。自身が製作・監督・主演を務めた「憂国」(66年、ATG)は、興行的にも大ヒット。ただし、三島氏の最期と同じく割腹シーンがあるため、未亡人がフィルムの焼却を要請している。
公開から40年後にようやくDVD化されたが、美輪(当時は丸山)明宏と共演した「黒蜥蜴」(68年、松竹)は今もソフト化が禁止の状態。また、その生涯を緒形拳主演で描いた「mishima」(84年、ルーカスフィルム)は、少年期の自慰シーンなどが遺族の怒りを買い、日本では公開もされないままだ。
さて「大群獣ネズラ」(大映)と聞いても、誰もピンとこないはず。それもそのはずで、64年の公開を目指したものの、撮影に着ぐるみではなく本物のネズミをかき集めた。これにノミやダニが大量発生し、保健所の警告もあって撮影が中止になった。
大映の怪獣映画第1作は、代わりに「大怪獣ガメラ」(65年)が務めている。
同じ特撮で言えば、秘中の秘と呼べるのが「ノストラダムスの大予言」(74年、東宝)だ。五島勉の大ベストセラーを原作に、公開当初は「文部省推薦作」のお墨付きまでついていた。
それが公開直後にさる反核団体の抗議を受け、該当個所を削除。今なおテレビ放映もソフト化もされないが、禁断の場面を、当時鑑賞した記憶としてここに列記すれば、
〈木の上で「どんぐりころころ」を歌う気がフレた開発大臣〉
〈死の灰の影響で人を食うようになった南洋の原住民〉
〈核戦争後の世界に登場する軟体人間〉
〈人口抑制のため、弱き者や能力なき者は消えてもらうと、とんでもない演説をする丹波哲郎〉
‥‥これでも、ほんの一例であることを補足しておく。
そして80年代、中森明菜と近藤真彦というゴールデンカップルの主演で話題になったのが「愛・旅立ち」(85年、フィルムリンクインターナショナル)だ。興行収入11億円の成績を収めたが、公開から4年後に明菜がマッチ宅で自殺未遂事件を起こす。1度はVHS化されたが、DVDになる日は永遠にやって来ないようだ。
スキャンダルメーカーなら酒井法子も負けてはいない。09年の覚醒剤事件から5年後、14年に公開予定だったのが「空蝉の森」(アルゴ・ピクチャーズ配給)だった。かなり大胆な濡れ場もあるとアナウンスされ、のりピーの「ハダカになって出直し」が期待されたが‥‥なんと、あろうことか制作会社が公開を待たずして倒産。
一説には酒井を起用したことでスポンサーが集まらなかったとも言われているが、いつの日か公開されることを祈りたい。
最後は、あの戸塚ヨットスクールを伊東四朗主演で描いた「スパルタの海」(83年、東宝東和)だ。映画化自体が無謀と言われたが、1億円の予算をかけて無事にクランクアップ。
だが、公開を間近に控えたところで、戸塚宏校長らが傷害致死などで逮捕される最悪の事態に。当然、公開は見送られたが、12年にようやくDVD化。その推薦文は、石原慎太郎氏が書いている。