この夏、「シン・ゴジラ」のメガヒットで、日本の特撮技術の高さが再評価された。だが、その原点である「ゴジラ」(54年、東宝)に主演した宝田明(82)に、門外不出の映画があることは、意外に知られていない。
──東宝特撮のレジェンドとして、よみがえった「シン・ゴジラ」はご覧になりましたか?
宝田 観たよ、いい映画だったと思う。ただ、せっかくのいいセリフが、あまりにもテンポが早くて伝わりにくかったね。
──その原点である「ゴジラ」第1作の公開から約9カ月後、東宝としては新たなモンスター映画の期待を込めて送り出されたのが「獣人雪男」(55年)です。
宝田 僕にとって2作目の特撮映画で、あの当時、ヒマラヤの雪男が話題になっていたことから作られたんだ。雪男の造形に関しては、特技監督の円谷英二さんのこだわりだったと思う。
──世界に冠たる“特撮の神様”ですね。
宝田 僕が戦時中に満州で観た「ハワイ・マレー沖海戦」は、あまりの迫力に映画館で立ち上がって拍手をした。それを円谷さんに告げたら「ああ、あれはミニチュアを使った特撮だよ」って言われて、心底びっくりしたね。
──この「獣人雪男」も「ゴジラ」と同じく本多猪四郎監督、円谷英二特技監督という最高の布陣でありながら、東宝特撮で唯一、ソフト化が許されていません。
宝田 うーん‥‥封切したから映倫は問題なかったんだろうけど、いろいろと抗議もあったんだろうね。
──資料によれば、雪男が棲息する狭い集落は「血族結婚」のためか、それぞれが体に障害を持っている者ばかり。さらに、獣人が生殖のため、美女に襲いかかるという描写も問題になったかもしれません。
宝田 美女を演じたのは日劇ダンシングチーム出身の根岸明美か。当時としては大柄な女優だったね。
──獣人に向かって「さあ、おやり!」と裸身をさらけ出すシーンは、50年代の日本映画としては物議を醸したでしょう。さて、撮影で印象に残ったことは?
宝田 谷川岳にロケに行って、助監督が岡本喜八だったんだけど、彼は山男だからサクサクと前に進んで行く。ところが、照明スタッフが足を滑らせ、大雪渓を500メートルほど落っこちていった。必死で探して、もしかしたら凍死したかもと思ったけど、奇跡的に助かってホッとしたよ。
──そんな労作が、一部の名画座以外は観られないというのは残念ですね。
宝田 僕はアメリカの特撮イベントに呼ばれることも多いんだけど、向こうでは「ハーフ・ヒューマン」の名で、こっそりDVD化されていて。そのパッケージに「サインください」という人もいるし、「あのカット割りは?」など、とにかくマニアック。僕も海外版のDVDはもらったので、家のどこかにあるはずだ。
──ぜひ拝見したいですね。そういえば、日米合作の主演作「緯度0大作戦」(69年)も、米側の権利関係の問題から、30年以上もお蔵入りになった作品です。
宝田 同じ東宝ニューフェイス6期の岡田眞澄も共演しているし、本多監督と円谷監督が組んだ最後の作品でもある。ようやくDVD化(06年)されたことは、天国の2人も喜んでいるだろうし、いつか「獣人雪男」もそうなってほしいね。
──同感です!