昭和13年に起きた「津山30人殺し事件」を映画化したのが、古尾谷雅人主演の「丑三つの村」(83年、松竹富士)だ。やがて古尾谷は役柄と同様に非業の最期を遂げる。未亡人の鹿沼絵里が、その“符合”を今、明かす。
古尾谷が田中登監督と出会ったのは「女教師」(77年、日活)で、その頃から監督は、いつか古尾谷と凶気をはらんだ作品を撮りたいと思っていたみたい。
あの映画は、私の妊娠と同時に撮影が始まり、長男の出産と同時に公開されたんです。あんなに人を殺す映画が正月に公開されたというのも、あの時代だからでしょうね。
古尾谷はあの役に対し、最初から最後まで自分を重ね合わせていたように思います。村一番の秀才と言われた青年が、肺結核になったことをきっかけに村人から疎外され、やがて大量殺人をする。古尾谷も母親に捨てられたような過去があって、役のこととはいえ、どこかで血が騒いでいたんでしょう。
実際、撮影が終わって帰って来ると「今日は何人、殺(や)ってやったぜ」と満足そうに笑っている。私にしてみたら、おなかに赤ちゃんがいるのに、物騒な話はやめてと思ったけど、彼にとってはあの現場が青春そのものだったんでしょうね。
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本作では五月みどり、池波志乃、田中美佐子、大場久美子と豪華な女優陣が共演し、それぞれが濃厚なエロスを見せている。だが今現在、この映画について語る女優は皆無である。
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女優さんたちが語りたがらないのは無理もないと思います。例えば大場久美子さんは、最後に古尾谷が口にピストルをくわえさせえ発砲するんです。
そのシーンを撮った日に、古尾谷は「大場さんの口の中をケガさせてしまった」と言っていました。古尾谷は、どこか本気で「殺してやる」くらいの気持ちで演じていますから、女優さんたちがトラウマになってもしかたないですね。
映画は公開直前に、映倫から「全編が非道で残虐的」と判断され、成人指定に変更されました。そのことについて古尾谷はショックな感じはなく、むしろ、いい宣伝くらいに捉えていたように思います。監督の田中登さんは、もともとロマンポルノで活躍した人だから、その扱いでも慣れたものでしょうし。
今年は古尾谷の十三回忌になり、久しぶりにこの映画を観なおしてみました。ラストに大量殺人を終え、丘に登って「皆様方よ、今に見ておれでございますよ」とつぶやいて、改造銃をくわえて自決する。あのセリフをあらためて聞くと、古尾谷は「ああ、呼ばれちゃったな‥‥」と思うくらい、彼そのものの言葉でした。
古尾谷は亡くなる前、この映画を自分が監督としてリメイクしたい。主演には長男を起用したいといつも言っていました。それがかなわぬままになりましたが、最近になって長男が「オヤジの監督でやってみたかったな」と言うんです。不思議な、だけど魅力にあふれた映画だったんでしょうね。