毎年夏に「心霊スポット巡礼ツアー」を行うタクシー会社が、あの「三億円事件」をツアー化する。ガイド付きで、未解決事件の犯人の足取りルートを巡るその最後に、乗客を襲う衝撃シーンを先行公開する!
その会社こそ、神奈川・東京・埼玉で、タクシー・ハイヤーの営業を行う三和交通である。「心霊ツアー」は、もちろん業界で初の試み。予約開始とともに完売が続く、人気企画だ。
「地元に根づいた仕事ならではのおもしろさで、宣伝を兼ねて、若手の人材を取り込みたいということから、さまざまな企画をしています」
そう話すのは三和交通の広報担当者。今回の新企画は、東京・府中で起きた戦後最大の窃盗事件として名高い「三億円事件」。まずは事件を振り返ろう。
1968年(昭和43年)12月10日、東京芝浦電気(現・東芝)の従業員のボーナス約3億円が、銀行から輸送されていた。現在の価値で約10億円だが、輸送車を白バイが止める。
「ダイナマイトが仕掛けられている」
男はそう言って車両を調べる。突如吹き上がる白煙。
「爆発するぞ! 早く逃げろ!」
そう叫び銀行員を避難させた男は、白バイを置き去り輸送車ごと逃走した──遺留品が多く、目撃者もいたことで、発生当初は早期解決のムードだった。しかし、遺留品は大量生産されたものや盗難品ばかり。警視庁は威信をかけて、名刑事・平塚八兵衛をも投入したが75年12月10日に公訴時効を迎えた。
ツアーが行われるのは11月12日から、事件発生日の12月10日までの毎週土曜日という凝りよう。前出の三和交通担当者が話す。
「全国各地から問い合わせが多かったうえに、発売から3日で完売しました。ガイドと運賃で7000円(税込)は採算度外視です」
ツアーは約1時間で6つのスポットを回るが、記者も現場へ急行し、先行疑似体験に独自挑戦した。
出発は現金輸送車の出発地点であった、日本信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)国分寺支店跡地。そこから輸送車が襲撃された現場へ移動し、約2キロ離れた犯人が車を乗り換えたとされる「クヌギ林」へ行く。そこから15分ほど車に乗り、逃走車と空のジュラルミンケース3つが発見された団地へ。最後に事件発生現場へ戻り、終了となる。当時の面影もない、府中の穏やかな街並み。しかし現場周辺の地元男性は、目を細める。
「49年も前の事件ですが、地元では誰でも記憶していますよ。まるで物語のように、受け継がれていますから」
26歳の女性記者にとって「三億円事件」は、生まれる前のこと。ガイドなしでコースを回ったが、大金を抱えて捜査網から逃げる犯人になった気分で、ドキドキが止まらなかった。
「ツアーでは、当時の資料をもとに特製のフリップを作って、今と昔の事件現場を見比べます。また、地元のお客様や、当時を知る従業員の証言を聞き、試走を繰り返して順路を組んでいます。ただの観光ではない、独自のガイドです」(前出・担当者)
従業員の中には、当時実際に警察から事情聴取を受けた人もいるという。
ツアーの最後には、衝撃のクライマックスが用意されている。
「弊社では、事件に使われた偽白バイを作りました。ツアーの最終地点では、その白バイでお客様の乗車したタクシーを止めて、事件をフラッシュバックさせるような形で終わります」(前出・担当者)
手の込んだ演出! だが、増便はされるのだろうか。
「弊社の社長は斬新なことが好きなので、どんな企画も前向きに検討してくれます。ただ三億円事件のツアーは、残念ながら今年だけのつもり。これからも地元を盛り上げ、お客様を楽しませる企画をたくさん考えていきます」(前出・担当者)
おもしろ企画をするタクシー会社とツアーの謎は解けた。しかし、未解決事件を突き止めるのは、あなたかもしれない!