この問題に詳しい元全国自動車交通組合の土井博氏が憤る。
「尼崎市の不正受給者の数は兵庫県の中でも飛び抜けています。尼崎のタクシードライバーの1、2割は生活保護を受けていると見ていいでしょう」
尼崎市は現在、市をあげて福祉の街づくりを掲げており、表向きは行政サービスの充実をうたう。
「知人に、生活保護を受けながら働いている男がいます。彼はもともと大阪で働きながら、生活保護を不正受給していた。だけどバレて、尼崎市に引っ越した。尼崎だと不正受給の過去があっても、生活保護申請があっさりと通るんですね。この人、尼崎でも一度バレたんですが、某政党の議員にお願いして同じ尼崎で不正受給を続けている。しかも大阪での不正受給分はいまだに返納していませんから」(尼崎市在住の男性)
現在、この男性は生活保護を受給中でありながら、タクシードライバーとして勤務する。なぜそんなことが可能なのか。タクシー業界関係者によれば、
「タクシー会社は人手不足などもあり、生活保護受給者を、問題なしとして積極的に採用する傾向がある。生活保護をもらっているからと、給料を安くするんですよ」
これは税金を食い物にする悪質な行為とは言えまいか。さらにはタクシー会社による脱税も、ドライバーらの間ではまことしやかにささやかれている「タブー」だ。
タクシー会社の売上管理は通常、ドライバーの日報を頼りにする。ドライバーは日報に運行記録を記載し、証拠となるタコグラフ(運行記録用計器)も一緒に会社に提出する。
「不正をする会社は受け取った日報を改ざんするんです。本来の出勤日を休日に変えたり、その日の売上金額を低い金額に書き換えたりする。そうすれば支払う税金が安くなる」(土井氏)
運行記録とタコグラフを突き合わせれば簡単に見抜ける単純な不正ではあるが、現状では野放し状態。理由は簡単で、管理する陸運局の人手不足が背景にある。大手タクシー会社が陸運局からの指導を免れるため、陸運局を訴訟に巻き込んで業務を停滞させているのが主な原因だという。社会部記者が解説する。
「関西の陸運局の監査部の人数は兵庫で8人、近畿運輸局でも20人程度と、非常に少ない。さらにタクシーだけでなく、バスやトラックなども監査の対象となるので、圧倒的な人手不足。国は今後、出先機関を減らすような動きになっている。そのうえ、各タクシー会社からの訴訟案件をいくつも抱え込んでいる。これではとてもじゃありませんが、細かいチェックや指導などを行うことができません」
兵庫県に限らず、関西では大なり小なり、タクシー利権は放置されたまま。私欲にまみれて腐った業界の病巣の闇は深い。