庶民の娯楽といえば映画が一番人気だった昭和30年代、日活のみならず日本を代表する人気スターだった石原裕次郎。彼が、56年の「狂った果実」以来、数多くの映画と共演したウワサの北原三枝と北海道へ婚前旅行、という情報を記者は手にいれた。
その聞き込み取材緊迫の現場を、アサヒ芸能1959年9月6日号は同時進行ルポしている。
そもそも噂の発火点は、以下のようなことからだった。
●北原三枝は5月以来、映画出演から遠ざかっていたし、日活との契約が9月に切れるので、女優を辞め結婚するのではないか?
●北原三枝は裕次郎とおそろいのツィンウェアを着用し、彼女の指には結婚指輪が輝いている。
●裕次郎は最近、都内世田谷区成城に新居を完成し、北原との結婚のためだ、と言われている。
2人はすでに同居していると情報もある。
また8月13日、裕次郎は出場を予定していたスター野球大会を急きょ欠席し長身の女性と羽田空港ロビーに消えていくのを、ロケしていた撮影スタッフに見つかった。
そこで裕次郎が北原と「婚約旅行」に出かけたという確証を得るべく、取材班は右往左往することになったのだ。ほんとうは北海道へ行って2人の後を追いたいが、小樽近辺にいるのではないかという想像だけで居場所がはっきりしない。
次に日活撮影所に行き、聞き込みをする。筑波久子は、
「2人は結婚するんでしょ、いいわね」
と羨ましがった。
18日夜、日航札幌営業所に電話を入れると、裕次郎は明日21時50分羽田着と判明した。
記者は。8月19日、ついに羽田空港で帰京した2人を見つけたが、親衛隊が取り巻き、当人の談話をとれない。
その2日後、衣装の仮縫いに来た日活撮影所で、北原三枝と一問一答に成功する。
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── 今度の旅行の感想は?
北原 とっても楽しかった。
── 裕ちゃんと婚約する?
北原 それはわからない。好きだということと、結婚はべつだもの。自分の方から求婚するというのも我慢できない…。
── じゃ結婚しないの?
北原 それもわからない。あなたたちだってそういうときがあるでしょう。一寸先は闇だってとこ。
彼らはほとんど裕次郎が幼少の頃育った小樽にいた。洞爺湖へ一日ドライブしただけ。それが最高に楽しかったと北原はいうのである──。
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その翌年60年、日活の反対を振り切り石原裕次郎は北原三枝と結婚、まき子夫人とは芸能界きってのオシドリ夫婦として有名だった。