回転寿司が安いのはネタの偽装が常態化しているから。そんな業界の実態を暴露し、我々庶民に衝撃を与えた本がある。「回転寿司『激安ネタ』のカラクリ」だ。発売から5年、回転寿司店はますます巨大化、ファミリー化が進み、より身近な存在になっている。著者の吾妻博勝氏に現状を聞いた。
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──著書を読むと、特に激安の回転寿司店では表示どおりのネタは1つも望めない気がします。
「もちろん全ての店がそうとは言わないが、今でもほとんどの店で偽装は行われていると思う。例えば、寿司で『エンガワ』と言えば『ヒラメのエンガワ』だが、これは1匹から4〜5人分のネタが取れればいいぐらいの希少部位で、高級寿司店でもめったにお目にかかれない。まれに入荷したとしても『お客さん、いいの入ってるよ』と常連客に出して終わり。そんなネタが全国の回転寿司で、まして1皿2貫100円や200円で食べられることは、ほぼ100%ない」
──では、その正体は?
「ヒラメとは何の関係もない、アブラガレイやカラスガレイ、または体長2メートル以上にもなる巨大ガレイ(オヒョウ)のエンガワ。
他にも『アナゴ』と言えば普通は『マアナゴ』を指すが、深海魚の『ホラアナゴ』、名前にアナゴと付くがウミヘビ科の『マルアナゴ』などが多く使われている。これらは人件費の安いチリ、中国などで、シャリに乗せるだけの形に調理・加工されたものが輸入されてくるので、店の人間ですら元が何なのか知らない場合もある」
──本には100種にも及ぶ偽装魚や代用魚のリストが掲載されています。
「恐らく、ここまで大規模なリストができたのは初めて。この本を持って築地に買いつけに来る業者もいたらしい(笑)」
──出版当時に比べて偽装は減った?
「それは難しいところ。出版後に某大手の回転寿司チェーンが、それまで使っていた写真入りのメニューを1億2000万円ぐらいかけて全て作り直したと聞いた。例えば『ヒラメのエンガワ』をただの『エンガワ』にしたり。ウソではないが、文句を言われても大丈夫なように逃げ道を作り、手口がより巧妙になったとも言える。安心して食べるには客が知識をつけるしかない」
──回転寿司店を調べようと思ったきっかけは?
「昔から釣りと魚が好きでね。ある日、回転寿司に行ってイカを食べたが、『イカ』と書いてあるだけで、種類がわからなかった。そこで店員に尋ねると『モンゴウイカです』と言う。ウソをつくなと。それなら食べればわかる。で、いろいろと調べてみたら体長3メートル以上にもなる『アメリカオオアカイカ』だということがわかった。これはスーパーなどで売られている『イカそうめん』にもよく使われている」
──良心的な店の見分け方は?
「やっぱりネタについて聞いた時にきちんと答えてくれるところ。何のエンガワか聞いて教えてくれたら良心的だと思う。一度、ネギトロにも何が入っているか聞いてみるといい。ほとんどの店は教えてくれないと思うが。
誤解してほしくないのは私はこれらを食べるのがいけないと言っているわけではない。新しい食材を探し、それが安くて安全で、さらに味もよいのであれば、きちんと表示して堂々と食べればいい。エンガワに利用しているカラスガレイなども、もともとは廃棄していた魚。それが今は宝の山だ。そうやって回転寿司が新しい魚食文化に貢献している面も多い。そして日本は世界の魚介類の3分の1を胃袋に収める国なのだから、もっと正しい知識をつけることが義務だと思う」