85年6月、「噂の眞相」に突如、アントニオ猪木VSブルーザー・ブロディ戦の八百長を告発する記事が掲載された。容赦ない猪木のキックで流血したかに見えたブロディの右脚は、ブロディ自身が隠していた凶器で傷つけたものだったのだ。この記事をまとめた板坂剛氏の「アントニオ猪木最後の真実」は、プロレス界初の暴露本となった。
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──当時、プロレスに八百長は‥‥。
「あったよ。力道山の頃から。でも、猪木さんは新日本プロレスを設立し、エンターテインメント路線からの脱却を目指していた。プロレスを純粋な格闘技として社会に認知させようとしていた──と少なくともファンは信じていたんだ。そりゃあ、ショー的要素もあるだろうけど、8割ぐらいは真剣勝負に違いないと。ところがブロディ戦でのあからさまな八百長‥‥」
──ブロディが自分の凶器で自分の脚を刺していたんですね?
「そう。私は家にいたんだけど、そのシーンがテレビにしっかり映っていて『何だこりゃ!?』と」
──本には画面を撮影した証拠写真も掲載されています。
「それなのに、どのプロレス誌もいつまでたってもそのことを書かない。だったらしかたがない、自分でやるかと。つきあいのあった『噂の眞相』の編集長に書かせてくれと連絡した」
──ただ、誰もがうすうすは八百長かもしれないと思っているプロレスに対して、あらためて八百長だと言うことに迷いは?
「あったね。だけど、こんなインチキすぐにバレるから。だったら猪木ファンである自分の手でバラしてしまえと。使命感に似た思いがあった。それにエンターテインメント路線を掲げていた馬場さんより、真剣勝負の振りをしながら八百長をしている猪木さんのほうがずっと罪は大きいと思ったんだ。本を出せば猪木さんが『こんなことじゃイカン』と反省してくれるかもしれないと、淡い期待も抱いていた(笑)」
──世間の反応は?
「プロレス雑誌やプロレス業界は完全に黙殺。取り上げられることも逆に文句を言われることもなかった。でも、ファンにはよく売れたみたい。スポーツジャーナリストの二宮清純からは『(神保町にある大型書店の)書泉ブックマートでプロレスコーナーを見ていたら30分で14冊売れましたよ』って言われた(笑)」
──出版は正解だった?
「後悔はしてないけど、本を出したことが正しかったかは今もわからないね。猪木さんに限らず、天才とかカリスマと呼ばれる人も裏を探ってみるといろいろヒドいことをやってるし、普通の人間と変わらないと思う部分も多々ある。それを私たちと同じ位置まで引きずり下ろして『見てみろ、同じじゃねえか』って言うのが暴露だと思う。私はタイガー・ジェット・シンと激しく闘っていた頃の猪木さんが好きで。きっと私もシンになりたかったんだろうね。だからシンのように猪木を襲ったんじゃないかな(笑)」