「昨日は日勤で今日は夜勤と、日勤夜勤の繰り返しです。体内時計がズレて体調がすぐれません。勤務先を変えようか迷っています」
ある研修医の悩みです。睡眠の時間帯を聞くと、日勤のあとそのまま朝まで夜勤。9時になると休みなく次の日の日勤になるそうです。その日は夕方5時に終わるかというと書類書きの雑用や、カルテの整理などがあり、終わるのは夜10時過ぎ。こんなサイクルが週に2、3回あると言います。
夜勤では、仮眠も取れるが、仮眠時間に急患が来ると寝られないことから、頭がボ~ッとするそうです。
こうした症状は、昼夜が逆転する睡眠リズム障害特有のものです。これは生活のリズムを左右するメラニンやメラトニン(ホルモン)のバランスが崩れ、眠くなる時間が後ろにズレ込むことで起こります。
さて、この方は勤務先を変えるべきか、あるいは続けるべきでしょうか。
夜が明けるとともに起きて、太陽が沈むとともに体を休ませる。これこそ人類のあるべき姿であり、理想的な生活であることは間違いありません。特に夜10時から深夜2時までの「ゴールデンタイム」に寝ると深い眠りができます。
しかし今のご時世、そうそう思いどおりの仕事には就けません。研修医に限らず、交通整理のガードマンやトラックドライバーなど、日勤と夜勤を繰り返す業種は少なくありません。
24時間営業のコンビニ店のオーナーなど、アルバイトのシフトによっては「今日は朝6時、明日は深夜3時、明後日は昼2時」などと仕事のスタート時間が日によってマチマチになるそうです。
これでも、人間には適応力があります。日勤と夜勤を繰り返しても、体内時計はちゃんとリセットできますし、仕事の状況に合わせることは簡単です。
そのコツは、世間一般の朝ではなく「自分にとっての朝」を作ることです。
例えば深夜3時に起きる場合、2時を過ぎたら部屋がしだいに明るくなるようタイマーをセットしておき、3時になったら目覚まし時計を鳴らすといいでしょう。最近の照明器具は、時間の経過とともに明るさを変えることができるので体を上手にだませます。
これは脳内時計に刺激を与え光を感じさせる行為です。脳内時計は脳の中心部にある視交叉上核にあり、頭蓋骨越しに外の明るさを感じます。光があると正しいリズムとなり、結果として深い眠りにつけます。
人間は1日を24時間として生活していますが、体内時計は約25時間が一つのサイクルです。
昼夜がわからない暗い部屋に人間を閉じ込めておくと起床時間が1時間ずつ遅れていきますが、目から入る光は、この周期を24時間に戻してくれるのです。
日勤と夜勤を繰り返す生活サイクルといっても、長い目で見ればリズム的には一定ですので、体を上手にだましてあげてください。
ただし、電気をつけっ放しで眠るのは体内時計を狂わせることにもなりますので、必ず消してから寝るようにしましょう。農家の促成栽培と同じで、生活サイクルを狂わせる遠因になりかねません。
人間は目が覚めてから16時間ほどすると眠くなるようにできており、日が暮れた、夜になったから眠くなるわけではありません。不眠症や入眠障害でないかぎり、16時間起きていれば自然に眠くなります。仕事の開始時間がマチマチな場合、布団に入る時間を逆算してみましょう。早寝をしたり、あるいは眠気に襲われても我慢して、ギリギリまで起きているのも一つの手です。
そのうえで時間の使い方に計画性を持たせると、バラバラのリズムともうまくつきあえることでしょう。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。