睡眠時間は人によって大きく異なるものです。ある研究によると、平均睡眠時間が7時間前後だと平均寿命も長くなり、これより短くても長くても平均寿命は短くなるとの報告があります。特に男性は職場環境によって睡眠時間を短くせざるをえないこともあるでしょう。とはいえ、1日4時間で健康を保っているショートスリーパーもおり、それは「上手に寝ている」と言えるでしょう。
健康は睡眠習慣が規則正しいかどうかで保たれていきますが、ここで問題です。睡眠不足と寝すぎは、どちらがより不健康でしょうか。
睡眠不足にも寝すぎにも共通するのが、うつ病などの「精神疾患」と「生活習慣病」のリスクです。睡眠不足だと昼間に眠くなり活力を低下させますが、寝すぎも頭をボーッとさせて同じようにパフォーマンスは低くなります。また、睡眠時間が短いと高血圧になりやすく、長いと体重が増加して糖尿病になりやすいとの報告もあります。
いずれにせよ、睡眠障害は怖いことに変わりはありませんが、毎日9時間以上眠ると、さらに脳の機能低下を招くことがわかっています。アメリカの研究で、睡眠時間が9時間以上の高齢者は認知症やアルツハイマーになりやすいとの報告があり、睡眠時間が長いほど日常生活の実行機能が不足し、習慣づくとさらに危険だとしています。
そう考えますと、やはり寝すぎのほうが健康リスクは高いと言えます。睡眠時間が4時間で頭がスッキリする人は、9時間以上寝てボーッとしている人より、よほど健康的なのです。
また、なかなか寝つけなかったり、寝てもすぐに目が覚めてしまう不眠症の症状を訴え「この1カ月、まるで寝られません」という患者さんでも、実は元気なケースが少なくありません。
コンビニや漫画喫茶の深夜営業の従業員は、客が来ない時間帯に、短時間でも上手に寝ています。これと同じで、断片的にポツポツ寝ていますが、不眠症の中には、この間の記憶が欠落している人がいます。なぜなら人間は48時間も寝ずにいると絶対に眠くなるからです。寝られないという人は、どれだけ起きていられるかギネスに挑戦するつもりで、とことん起きていてください。2~3日後に必ず眠くなります。つまり、本当の不眠症は、本来はありえないのです。
自分は不眠症だと勝手に判断し、睡眠薬や睡眠導入剤に頼り始めると、入眠時間も睡眠時間もバラバラになり、日中のパフォーマンスを低下させて生活習慣が崩れるなどの悪循環を招きます。
薬に頼るくらいなら、寝酒でアルコールを摂取するほうがいくらかはマシです。アルコールには睡眠作用もありますが、同時に覚醒作用があり、飲んで寝ても3時間ほどで目が覚めますが、多量の飲酒さえしなければ、適度な睡眠薬になるでしょう。
人間は考え事や悩み事が多いと寝つけなくなるので、仕事のあとは頭のスイッチを切り替えるよう努めれば、寝つきもよくなります。家族との団らんやテレビを見ているうちに眠くなるので、この時に布団に入ると快適な睡眠が得られます。
これまで何度かお話ししていますが、人間は午後10時から午前2時の「ゴールデンタイム」に床に就くといい眠りが得られます。同時に起床から16時間後に眠くなるようにできていますので、「毎朝6~7時に起きて夜10~11時に床に入る」といった生活習慣をつけると健康的な毎日が送れます。人間は規則的な生活こそが最も大事なのです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。