「あなた、またなの?」で始まるテレビコマーシャルを目にしたことがないでしょうか。夜中、頻繁に目が覚める旦那さんに対して、横で寝ている奥さんが声をかける内容です。同じ布団で寝ているパートナーが頻繁に起きると「いいかげんにしてよ」と言いたくなりますが、「夜中、頻繁にトイレに行きたくなる」のと「夜中に頻繁に目覚める」のとでは、どちらが深刻な症状でしょうか。
夜中に男性がトイレに行きたくなる場合、前立腺肥大が疑われます。50歳前後で始まり、70歳になれば誰でも例外なく肥大します。いわば白髪が生えてくるようなものですが、人により差異があり、手術が必要な人もいれば「トイレが近い」で済む人もいます。
前立腺肥大かどうかは、おしっこの出方でわかります。出そうとしてもすぐに出ず、排尿の勢いも「チョロチョロ」。若い人と同じタイミングでチャックを降ろしても、締めるタイミングが遅くなります。お酒を飲んでいないのに一晩で3回以上トイレに行く人は、前立腺肥大と見て間違いありません。
また、女性が夜中トイレに何度も行く場合、「過活動膀胱」が考えられます。これは中年女性に増えている症状です。
女性の場合、おしっこがたまると「出して」という信号が脳から膀胱に送られますが、少ししかたまってないのに信号が出てしまうものです。バス旅行などで「次のトイレが2時間後」という場合、「今のうちに」とトイレに行きますが、こうした焦りが続いた結果、膀胱を過敏に活動させてしまいます。
思い当たる女性の方は、おしっこを我慢してみてください。最初は10分、次は15分などと我慢をするうちに、正常な膀胱感覚に戻ります。外出先でやるとパニックになりかねませんので、家の中や職場など「いつでもトイレに行ける環境」で練習するといいでしょう。
以上のように「おしっこで目が覚める」のは、加齢から来る前立腺肥大か、ストレスが原因のケースがほとんどです。
対して、トイレに行きたくもないのに頻繁に目覚める場合、「睡眠障害」が疑われます。これは朝まで睡眠を持続できない症状で、長く続くと血圧が上がり、心臓にも負担がかかります。寝不足を招いた結果、ストレスが生じて胃腸に負担をかけ、朝方の心筋梗塞や動脈硬化の原因ともなります。
夜の睡眠とは、昼間のストレスを解消させ、明日に向けてリセットする時間帯です。いい睡眠が取れないと前日の疲れが取りきれず、慢性化すると大病に結び付く危険があります。
睡眠障害は、国際分類で見ると不眠症、呼吸障害(睡眠時無呼吸症候群)、過眠症(ナルコレプシーなど)、リズム睡眠障害、睡眠時随伴症(寝ぼけなど)、運動障害の6つに分けられます。最もポピュラーな不眠症には「入眠障害」や「中途覚醒」などがあり、多くは睡眠薬を用いますが、依存症という弊害もありますので、できれば使いたくないところです。
睡眠時無呼吸症候群は睡眠時に呼吸が一時的に止まったり、低呼吸となる症状です。しばらく無音なのに、いきなり大きないびきをかくのが特徴です。太っている人に多く見られ、高血圧や不整脈、糖尿病、動脈硬化などを合併するため非常に危険です。夜中に熟睡できないため昼間頻繁に眠くなります。思い当たる方は医師に診てもらいましょう。
快適な毎日を送る場合、快適な睡眠は不可欠な要素です。枕を高くして眠れるよう、不安なことはできるかぎり忘れ、明日に向けてリセットしてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。