“年末の格闘技”と聞いて、思い出すのは、10年程前、大晦日に何らかの格闘技イベントが生中継されていた頃、殿、軍団&若手らが10数名程で殿邸に集まり、酒を飲みながら、ワイワイと一緒に格闘技中継を見て年を越した、大忘年会です。
この忘年会は、都合5~6回は開催されたと思うのですが、どれもが年をまたぎ、新年会へとなだれ込む長丁場の宴であり、朝方、殿が全員にお年玉を配り終えるとお開きとなる、大変楽しい大宴会でありました。
そんな楽しい宴も、一度だけ、雲行きが怪しくなったことがあったのです。
その年、大晦日に仕事が入っていた殿に合わせ、宴会開始は23時頃だったのですが、殿は自分が仕事中に放送されていた格闘技中継の録画を帰ってからゆっくり見るのをことのほか楽しみにしており、たびたび、
「今年は俺が仕事だからよ。それ終わりでみんなで○○○(格闘技イベント)を見ればいいな」
と、口にしていました。
が、当日、録画を任されていたわたくしが、あろうことか録画に失敗するという痛恨のミスを犯してしまったのです。仕事終わりでわたくしたちと合流した殿は、そんなことなどつゆ知らず、帰宅するとすぐ、
「よーし、北郷。○○○見るか」
と、実に陽気な調子で録画再生の指示を発令させました。仕方なく、ビビりながらも正直にことの次第をお伝えすると、殿の顔は一瞬で曇りだし、
「えっ! 見れない!? どうしてもダメなのか? 何だそれ。じゃーどうすんだよ。俺、何見りゃいいんだよ。今日どうすんだよ」
と、かなり激しい苦言を呈すと、一気に不機嫌極まりないといった怖い殿へと変貌されたのです。
この時、その場にいた誰もが、“え~! この空気で年を超すの?”。そう心の中で驚愕したはずです。で、朝までの長丁場ですから、何とか空気を変えねばと、かつて類を見ないほど必死に、殿へのご機嫌とり攻撃を、もはや破れかぶれで開始したのは当然の成り行きです。「殿ほどのカリスマが他にいるのか?」「役者としての存在感は、すでにデ・ニーロを超えています!」「殿のような人物は、少なくとも、向こう300年出てこないでしょう」等々、もうバカになって、真っ正面から堂々と、“北野武賛美”をブチ込んだのです。すると、小細工なしの直球勝負が功を奏したのか、30分程すると、殿の機嫌が著しく回復しだし、除夜の鐘が鳴る頃には、
「テレビも飽きたな。おい、カラオケ大会やるか!」
となり、気がつけばその年の宴会は、例年よりも楽しい夜となったのです。そして、最後はいつもどおり、
「まー去年もいろいろあったけど、今年もみんな頼むな。あと北郷、もう録画はミスるなよ」
そう殿が挨拶をしてお年玉を配ると、何とか無事、お開きとなったのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!