風間は、93年に起きた埼玉・愛犬家殺人事件で逮捕・起訴され、09年に最高裁で死刑が確定している。
一連の「愛犬家殺人事件」では、犬の売買を巡るトラブルを発端にして事件が起こり、4人が犠牲となった。
この事件の異様さは、関根が口にしていた「ボディを透明にする」の言葉どおり、犠牲者の遺体を、肉はサイコロステーキほどに切り刻み川に流し、骨は粉になるまで高温で焼き、ほとんど消滅させたことだ。のちにこの事件が発覚したことで、「遺体なき殺人事件」として世間の注目を集めたことを記憶している人々も少なくないだろう。
最高裁が下した判決どおり、風間もまたこの凶悪犯罪に手を染めた殺人者だと、ずっと思い込んでいた。
ところが、11年、「アサヒ芸能」で、女性死刑囚というテーマで記事を書き、風間を取り上げることになり取材をするうちに、その考えが一変した。
風間に支援者がいることを知り取材した際に、「彼女は殺人者ではない」という言葉を、2つの見方として、誌面で紹介した。その時点では、私は、その言葉を信じたわけではなかった。「風間は殺人は行っていないが、死体損壊遺棄は行った」とのこと。「殺人の実行行為には及んでいなくとも、共謀していたなら、殺人罪に問われるのでは?」とも考えていた。
そうした疑問点を解き明かそうと、その支援者から送られてきた膨大な公判資料を、読み込んでいった。
そこで注目したのが、事件のもう1人の主要人物として、殺害した遺体を見せつけられた恐怖から、死体損壊遺棄のみを行ったという、中岡洋介(仮名)の存在である。
最も雄弁な証拠である遺体が消滅させられたため、捜査当局が最も頼りにしたのは、関係者の供述。中でも、中岡の供述が決め手となって関根と風間は殺人罪で起訴されたのだ。
だが、関根と風間の公判に証人として出廷した中岡は、次のように証言した。
「博子さんは無実だと思います」
「人も殺してないのに、何で死刑判決出んの?」
法廷ではかなり詳しく語っている。同様の発言は、浦和地裁(現さいたま地裁)と控訴審の東京高裁で計5回あった。
取材を進めると風間は遺体損壊遺棄こそ行っているが、殺人の共謀には関わっていないという“事実”が見えてきたのだった。
●埼玉・愛犬家殺人事件とは●
1994年2月、埼玉県熊谷市にあるペットショップに出入りする人物が次々と亡くなるという事実が明らかになった。その渦中にいたのが、犬のブリーダーだった関根元と風間博子の夫婦だった。トラブルメーカーとして知られていた夫婦の周辺では計4人が死亡。「遺体なき殺人」として捜査は難航を極めたが、経営するペットショップの役員の供述などにより立件された。2009年6月に関根、風間両被告の死刑が確定。現在、風間死刑囚は2度目の再審請求を行っている。
ジャーナリスト 深笛義也