「しかし緊張したな~。どっと疲れたよ」
2015年12月、某番組で、長嶋茂雄さんと対談された殿は、収録が終わるや、訴えるように周囲にこう漏らしたのです。殿の長嶋さんに対する、“LOVEぶり”は、大変なもので、長嶋さんの話をされる時はいつだって“野球小僧のたけちゃん”に戻り、目をキラッキラさせます。そんな時の口癖は、「何てったって長嶋さんだからな」です。殿にとってのヒーロー・長嶋さんとの初めてのプライベートでの遭遇といえば、
「俺が事件を起こして謹慎してる時に、長嶋さんから、『たけしさんが落ち込んでると思うから』って、初めてゴルフに誘われたんだよ。もううれしくてうれしくて、前の日から舞い上がっちゃってよ。ほとんど寝ないで待ち合わせ場所にゴルフバッグ担いで行ったら、向こうから長嶋さんがずんずん歩いて来たんだよ。『わっ、長嶋さんだ!』って直立不動で待ってたら、長嶋さんが、『どうも。たけしさん。今日はゴルフですか? いいですね~。じゃあ~』ってそのまま行っちゃったんだよ。『あれ?』って思ってたら長嶋さんが慌てて戻ってきて、『ごめんごめん。今日は僕が誘ったんだよね。じゃー行こうか』だって。あれにはコケたよ」
この話を殿が先の対談で、「ネタでも何でもなく、本当ですよね」といった感じで振ると、長嶋さんは、「そうそう。そんなこともあったね」と、笑顔でお答えになっていました。殿も長嶋さんも素敵過ぎます!
殿は、「よく考えたら長嶋さんが国民栄誉賞もらってないのはおかしい」と、長嶋さんが国民栄誉賞を受賞される数年前、方々で言っていたことがありました。さらに、仕事で政府の方とお会いになると、“長嶋さんこそ国民栄誉賞を受賞されるべき”と進言したと、殿が言われていたことがあったのですが、なんとその数カ月後、松井秀喜さんと同時といった形で、長嶋さんの国民栄誉賞が発表されたのです。
この時、殿は冗談っぽく、
「俺の発言が結構効いたんじゃねーか」
と、うれしそうに語っていました。
ちなみに、この話には後日談があって、長嶋さんがごひいきにされているお店に偶然、殿が食事しに行くと、そのお店に長嶋さんから電話が入り、直接電話で、「このたびの受賞は、たけしさんがいろいろ言ってくれたおかげなんですってね。ありがとうございました」と、お礼を述べられたそうです。殿はこの話をめちゃくちゃうれしそうに語っていました。
最後に、74年、長嶋さんが引退された日、殿はこう感じたと言います。
「あの時は、『もう俺も大人にならなきゃいけないな』なんて思ったな。もう長嶋さんに頼らないで、自分で頑張って行かなきゃいけないなって。そんなふうに思った日本人は、結構いたんじゃないかな‥‥」
そう言えば、長嶋さんが引退されたその年、殿はきよしさんと、漫才コンビを結成されたのです。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!