30代後半の頃から約10年にわたって連載した私の作品「ハロー張りネズミ」が、連続ドラマになります。14日(金)22時からTBS系列で放送予定です。それを記念して、当時連載していた「週刊ヤングマガジン」で、「ハロー張りネズミ」の前後編読み切り新作を描くことになりました。そこであらためて「どんな作品だったのか」「今描くなら、どんなストーリーがいいのか」、そんなことを考えるために読み返してみました。
その感想をひと言で言えば、「とてもおもしろかった!」です(笑)。今に比べると、やはり絵は細いですし、時間があれば描き直したい部分はたくさんありますが、何より自分自身が楽しんで描いているのがよくわかります。
ご存じない方のために簡単に説明しておくと、この物語の舞台は、東京都板橋区下赤塚にある「あかつか探偵事務所」。そこに所属する主人公の“張りネズミ”こと七瀬五郎など、探偵とその仲間たちがさまざまな事件に挑んでいく、いわゆる「探偵もの」です。
当初は身の回りに起きる小さな事件を1話完結で解決する町の探偵屋さん、というような作品をイメージしていました。ですが、描き進めるうちにどんどん楽しくなってしまい、しまいにはソ連の情報機関「KGB」は出てくる、江戸時代にタイムスリップしてしまうなど、今考えれば本当にハチャメチャな何でもアリの作品になってしまいました。
おかげさまでそれなりに人気もありましたから、編集部から注意を受けることもなく、本当に好き勝手をやらせてもらいました。その意味では若かったからこそできた作品なのでしょう。恐らく、今手がけたなら、別の形になっていたのではないでしょうか。
他にも私の昔の作品は「ワイド版」や「文庫版」などに判型を変えたり、「傑作選」「○○編」といった形で再編集され、発売されることがしばしばあります。編集部から見本が送本されてきた時に「どんな感じにできあがったのかな」とパラパラと目を通したりすると、その作品を描いていた当時のことを思い出したりするのです。
当時はまだ「漫画家としていつまでやっていけるんだろう」と思っていた時代ですから、そういった切迫感のようなものも、絵やストーリーに表れています。漫画家は人気がなくなれば出版社からの依頼もなくなり、すぐに廃業せざるをえない職業ですから。
ただ、不安はまったくありませんでした。昔から「そうなったらその時に考えればいい」「なるようになる」という楽観主義ではあるのですが、やはりそれもまた「若さ」ゆえの勢いがあったからなのだと思います。
ドラマ「ハロー張りネズミ」の内容・キャストなどに、私は一切口出していません。漫画とドラマは別物、というのはもちろんですが、私の若さの結晶であるこの作品には、大根仁監督、主人公役の瑛太さんをはじめとするキャスト・スタッフの若い力こそがふさわしいと感じたからです。
今なお評価してもらえる作品を生み出せた喜びは確かにありますが、私は今も現役。この年齢だから描ける新作を、まだまだ描き続けていきたいのです。
弘兼憲史(ひろかね・けんし):1947年山口県生まれ。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務後、1974年、漫画家デビュー。現在、「島耕作」シリーズや「黄昏流星群」を連載するほか、作家、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。