弘兼憲史が新しい老後を提唱する週刊アサヒ芸能の人気連載「老活のススメ」が200回で堂々のフィナーレを飾る。それを記念して、カリスマ棋士とのスペシャル対談が実現。数々の記録を打ち立てた大御所にして、今やお茶の間の人気者「ひふみん」は、まさに老活を楽しむ達人だった! 将棋、家族、そして芸能界での新たな挑戦をエネルギッシュに語り、さしもの弘兼氏も押され気味!?
加藤 弘兼さんは、小さい頃から将棋に興味をお持ちでしたか?
弘兼 僕らの年代はみんな好きですね。まわり将棋から始めて、はさみ将棋に行き、小学校高学年で普通の将棋という順番です。矢倉や棒銀といった「型」を覚えて振り飛車とかもやりました。それでも3手くらい先しか読めません。
加藤 いやいや、3手先を読めたら一人前ですよ。
弘兼 今は漫画を描いている途中、息抜きでパソコンの将棋アプリで遊んでいます。ただ、将棋アプリは強いので、5回くらいは「待った」をしないと勝てません(笑)。加藤九段はコンピュータを使いますか。
加藤 使いません。やはり人間がいちばん強いと思っていますから。
弘兼 人間のひらめきのほうが速い、ということですか。
加藤 私の場合、盤面を見た瞬間、95%は最善手が思い浮かびます。
弘兼 ということは、早指しも得意だったのですか。
加藤 持ち時間が20分のNHK杯で7回優勝しています。1手に2時間、3時間かかる長丁場の戦いでもタイトルを取っています。思うに、将棋の天才とは、ひらめきと長考の両方が優れている人のことを言うのだと思います。
弘兼 加藤九段は、対局中に相手側の盤面に回り込んで見る「ひふみんアイ」が有名ですが、あれは何か意図があったのですか?
加藤 あれは昭和54年2月7、8日の王将戦、中原名人との対局でした。中原名人が席を離れた時、反対側の席に回ってしばし盤面を見たら、すばらしい手が浮かんできたんです。
弘兼 相手の視点から考えたのですね。
加藤 その手を指したら、中原名人に勝って、王将を獲得できました。
弘兼 それはすごい。ネクタイを長めに結んで戦うスタイルも独特と言われていますよね。
加藤 あれもたまたま長く結んで戦ってみたら、すごく気分がよかったので、それが習慣になりました。
弘兼 おもしろいですね。こだわりといえば、対局中の昼食も話題になりますが、加藤九段はうなぎを好んで食べられたとか。それはゲン担ぎですか?
加藤 そうではありませんが、私の場合、一度決めたら長いこと変えない性格で、昼と夜の食事でうな重を食べる生活を40年間続けました。
弘兼 夜もですか?
加藤 正確に言うと、昼がうなぎ2匹のうな重で、夜は3匹のうな重です。夜の戦いはおなかがすきますからね。うなぎのいいところはおいしくて、腹持ちがいいことです。お寿司もおいしいのですが、すぐにおなかが減ってしまいます。
■弘兼憲史(ひろかね・けんし)1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、74年に漫画家としてデビュー。現在、「島耕作シリーズ」や「黄昏流星群」を連載するほか、作家、ラジオのパーソナリティーとしても活躍中。「新老人のススメ」(小社刊)など著書多数。
■加藤一二三(かとう・ひふみ)棋士九段。1940年、福岡県出身。早稲田大学中退。第40期名人。仙台白百合女子大学客員教授。54年、当時の最年少記録となる14歳7カ月で史上初のプロ棋士となる。17年6月の引退まで、62年10カ月にわたりプロ棋士として活躍。00年紫綬褒章を受章。通算成績は2505戦1324勝1180敗1持将棋。現役引退時点で勝利数は歴代3位、対局数と敗戦数は歴代1位。近年は「ひふみん」の愛称でバラエティー番組など多くのメディアに出演。